疾患・状態
うつ病
よみ:うつびょう別名・英語表記:大うつ病性障害、major depressive disorder、MDD
うつ病とは、強い抑うつ気分や興味・喜びの喪失が続き、睡眠や食欲、意欲などにも変化が出て生活に支障が生じる精神疾患です。心理職が押さえるアセスメントと支援の要点をまとめます。
うつ病とは、気分の落ち込みや、何をしても楽しめない状態が長く続き、睡眠や食欲の乱れ、だるさといった身体の変化も重なって、仕事や学業、家事などの日常生活に大きな支障が出ている状態を指す精神疾患です。以前の診断基準の訳語から「大うつ病性障害」と書かれることもあります。分類のうえでは、DSM-5-TR では抑うつ症群、ICD-11 では気分症群に含まれます。
心理職にとって大切なのは、うつ病を「気持ちの弱さ」ではなく、治療と休養、環境調整が必要な状態として理解し、相談者の今の状態を丁寧に見立てることです。診断は医師が行うものですが、面接の最初に出会うのは心理職であることも多く、見立てや医療へのつなぎ、日常生活への影響の整理が支援の質を左右します。
うつ病の主な特徴
うつ病では、精神面と身体面の両方に変化が出ます。国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」では、終日続く憂うつな気分や、物事を楽しめない感覚といった心の症状に、不眠、食欲低下、疲労感などの身体の症状が重なって現れるとされています。
診断基準そのものは、DSM-5-TR や ICD-11 の原典で確かめてください。要点としては、抑うつ気分か興味や喜びの喪失のどちらかを含む複数の症状が、ほぼ毎日、数週間にわたって続き、生活に明らかな支障が出ていることが目安になります。具体的な項目や数は、原典を確認してください。
面接で見られやすい様子には、次のようなものがあります。
- 表情が暗い、反応や話し方がゆっくりになる
- 自分を責める言葉が増え、物事の捉え方が否定的になる
- 涙もろくなる、落ち着かない、いらいらする
- 睡眠が減る、または眠りすぎる。食欲の増減
- 頭痛、肩こり、だるさなど、身体の不調として訴える
日本では、生涯のうちにうつ病を経験する人が100人に約6人という調査結果があり、女性は男性の1.6倍ほど多いと、こころの情報サイトに記載されています。調査の年や方法は、同サイトや元の調査報告で確かめてから使ってください。
似ている状態との違い
うつ病の面接で最も注意したいのは、双極症(双極性障害)との区別です。うつ病ではうつ状態だけが見られますが、双極症ではうつ状態と躁状態(軽躁状態)がくり返されます。両者は治療の進め方が大きく異なるため、面接では「これまでに、ふだんより極端に調子が良く、眠らなくても平気だった時期はなかったか」を、本人と必要に応じて家族にも確かめておくことが役立ちます。
そのほか、次のような状態との見分けも必要です。
- 適応障害:はっきりしたストレス要因との関連が強く、要因から離れると軽くなる場合
- 身体疾患や薬の影響:甲状腺の不調、内科の治療薬などでうつ状態が出ることがあるため、医療機関での確認が欠かせません
- 悲嘆反応:大切な人を亡くした後の落ち込みとの重なり
- 不安症や睡眠の問題:うつ病に併存することも多く、どれが中心かを整理する
自己判断で結論を出さず、気になる点は医師に伝えて連携することが基本です。
心理職が支援するときのポイント
まず、リスクの確認を欠かさないことです。重い状態では、死にたいほどの苦痛を訴える人もいます。初回から希死念慮について、責めない姿勢で、具体性や準備の有無を含めて尋ね、所属先の手順にそって対応します。
アセスメントでは、次の点を整理します。
- 症状の始まりと経過、今の重さ、一日の中での波
- 睡眠、食事、仕事や学業の状況、日常の行動量
- 引き金になった出来事(つらい出来事だけでなく、昇進や引っ越しなどの変化の後にも起こりえます)
- 医療機関の受診状況、服薬しているかどうか、主治医の方針
- 支えとなる人、使える制度(休職、相談窓口など)
面接の進め方でも、配慮が必要です。うつ状態では考える力や決める力が落ちているため、大きな決断(退職、離婚など)は症状が重い時期には急がないよう、一緒に整理します。励ましの言葉が重荷になることがあるので、「頑張って」よりも、現在のつらさを受けとめ、休養の大切さを伝えることを優先します。初回の聞き取りの型は、インテーク面接の記事も参考にしてください。
心理教育では、うつ病は脳の働きの不調が背景にあると考えられていること、休養が治療の一部であること、薬の効果はすぐには出ないこと、自己判断で薬をやめないことを伝えます。伝え方は心理教育の考え方に沿って、相手の理解度にあわせます。薬の種類や量、治療の選び方についての助言は医師の領域ですので、心理職は「主治医に相談してみましょう」とつなぐ役割を担います。
よく使われる心理療法・アプローチ
うつ病の治療は、薬物療法と精神療法が中心で、軽い有酸素運動が症状を軽くすることも知られている、とこころの情報サイトに記載があります。精神療法には、基本となる支持的な関わりを土台に、認知行動療法や対人関係療法といった専門的な方法が用意されています。
認知行動療法では、物事の捉え方(認知)と行動の関係を扱い、活動を少しずつ増やす行動活性化や、否定的な考えを検討する作業を行います。実施の流れは認知行動療法のやり方で整理しています。症状が重い時期は、技法を急がず、休養と安全の確保を優先し、回復に合わせて段階的に進めるのが一般的です。
医療機関と協力して支援する場合は、診察での方針や診断名、休職の有無を確かめ、心理面接で得た情報のうち共有してよい範囲を本人と相談しておきます。職場の相談室や産業保健の場では、休職中の過ごし方や復職の時期について、主治医や産業医の判断を前提に、本人の生活リズムや不安を整理する役割を担います。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」で、職場側の流れを確かめておくと連携しやすくなります。個別の事例は、ケースフォーミュレーションの形で整理しておくと、見立ての更新や事例検討に役立ちます。
関連する用語
- 抑うつ気分:うつ病で中心となる症状の一つ
- 双極症:うつ状態をともなう別の疾患で、区別が重要
- 希死念慮:リスク評価で必ず確かめる事項
- 認知行動療法:うつ病で広く用いられる心理療法
参考文献・出典
- 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所「こころの情報サイト うつ病」 https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=9D2BdBaF8nGgVLbL
- 日本うつ病学会 ホームページ(診療ガイドライン) https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/
- 厚生労働省「こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」 https://kokoro.mhlw.go.jp/
- American Psychiatric Association(編)、日本精神神経学会(日本語版用語監修)、髙橋三郎・大野裕(監訳)『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、2023年
