心理療法・技法
認知行動療法(CBT)
よみ:にんちこうどうりょうほう別名・英語表記:CBT、Cognitive Behavioral Therapy、認知療法・認知行動療法
認知行動療法(CBT)とは、物事の受け取り方(認知)と行動に働きかけ、困りごとの悪循環をほどいていく心理療法の総称です。
認知行動療法(CBT)とは、そのときの状況に対する受け取り方(認知)と行動に目を向け、困りごとを保っている悪循環を整理して変えていく心理療法の総称です。単一の技法の名前ではなく、認知療法と行動療法の流れをくむ複数の技法をまとめた呼び方で、うつ病や不安症などの支援で広く用いられています。
心理職にとっての要点は、技法を並べることよりも、本人と一緒に「何が困りごとを続けさせているのか」を見立て、ねらいと進め方を共有しながら進める点にあります。この言葉のページでは用語としての整理を中心に書きます。面接の流れや技法の実際、診療報酬の算定要件は、認知行動療法のやり方の記事で扱っています。
認知行動療法の考え方
認知行動療法では、気分や行動は出来事そのものだけで決まるのではなく、その出来事をどう受け取ったか(認知)によって変わると考えます。たとえば同じ出来事でも、受け取り方によって落ち込みの強さも、その後にとる行動も変わります。
もう一つの柱が行動の見方です。不安や気分の落ち込みがあると、人は避ける、引きこもる、確認を繰り返すといった行動をとりがちです。その行動は一時的に楽になる一方で、長い目で見ると困りごとを保つ働きをすることがあります。認知と行動、気分、身体の反応が互いに影響しあう循環として整理するのが、基本の見取り図です。
成り立ちとしては、学習理論にもとづく行動療法と、認知のあり方を扱う認知療法が合流してきた経緯があります。そのため「認知行動療法」と書かれていても、行動面を重くみる実践もあれば、認知の検討を中心にする実践もあります。何をさして使われている言葉なのか、文脈で確かめる習慣が役に立ちます。
進め方の流れと主な技法
国の資料では、うつ病に対する認知療法・認知行動療法の治療者用マニュアルが公開されています。マニュアルは、1回30分以上の面接を原則として16〜20回ほど行う構成で、セッションごとにホームワークを用いることを前提にしています。
進め方に共通する特徴を、用語として押さえておきます。
- 協同的経験主義: 治療者が答えを教えるのではなく、本人と治療者が一緒に仮説を立て、現実に照らして確かめていく姿勢です
- 見立てと目標の共有: 困りごとの成り立ちを図などで共有し、目標を話し合って決めます
- 構造化されたセッション: 前回の振り返り、今回の議題決め、ホームワークの確認と設定、フィードバックという流れで進めます
- ホームワーク: 面接で扱ったことを生活の中で試し、結果を次回に持ち寄ります
技法は、おおまかに認知に働きかけるものと、行動に働きかけるものに分けて語られます。
- 認知に働きかける技法の例: 気持ちが動いたときの考えを書き出して見直す思考記録(コラム法)、考えを裏づける事実と反する事実を検討する作業、別の見方を探す作業
- 行動に働きかける技法の例: 活動記録表をつけて行動と気分の関係を見る、行動活性化、課題を小さく分けて取り組む段階づけ、予測を現実の行動で確かめる行動実験
- 不安症で使われる技法の例: 避けてきた状況に少しずつ向き合う曝露療法
どの技法を使うかは、疾患や本人の状態、治療の段階によって変わります。マニュアルでは、始めは治療者が主導し、次第に本人が自分で使いこなせるようにしていくことがめざされています。
向いている状態とエビデンス
令和8年度診療報酬改定後の通知(令和8年3月5日保医発0305第6号)では、保険診療で算定できる認知療法・認知行動療法の対象は、入院中でない、うつ病等の気分障害、強迫症(強迫性障害)、社交不安症(社交不安障害)、パニック症(パニック障害)、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、神経性過食症、不眠症の人とされています。不眠症はこの改定で加わり、うつ病や不安症を合併している場合などに限られます。算定は一連の治療で16回まで(不眠症は8回まで)で、30分を超える面接であること、疾患ごとに指定されたマニュアルに従うことなどが条件です。疾患別の治療者用マニュアルの多くは厚生労働省のページに掲載されています。
この改定では、医師による場合、医師と看護師が共同する場合に加えて、医師の治療計画のもとで、要件を満たす公認心理師が認知行動療法的アプローチに基づく心理支援の面接を行う区分が新しく設けられました。実施する公認心理師の勤務経験、施設基準(面接への同席や実施の回数、研修の修了など)が細かく定められているため、所属先の届出の状況と通知の本文を確かめてください。
PTSDや強迫症のように、疾患に特化した形が整えられているものもあります。一方で、効果の程度や推奨の強さは、疾患、治療の形式、比較の対象によって異なります。診療ガイドラインや原典の記述を確かめたうえで説明するのが安全です。「CBTはよく効く」といった言い方は、本人の期待を高めすぎることがあるため、避けたほうがよいでしょう。
実施するときの注意点
認知行動療法は、本人にとって負担のある作業を含みます。心理職として次の点を意識しておくと、進めやすくなります。
- 見立てを先に: 技法ありきで始めず、困りごとの成り立ちを整理してから選びます。見立ての考え方はケースフォーミュレーションの記事が参考になります
- 「考え方が悪い」と受け取られないように: 認知を扱うと、本人が自分の考えを責められたと感じることがあります。つらさに共感し、その受け取り方が自然に生まれた背景を認めたうえで、検討を提案します
- ホームワークの出し方を点検する: 取り組めなかったときは、本人の問題だけにせず、課題の大きさや説明のしかたを見直します
- リスクの評価を続ける: 気分の落ち込みが強いケースでは、希死念慮の有無を折にふれて確かめます。ほかの精神疾患の併存や服薬の状況は、主治医の方針を確かめて連携します
- 適応の判断: 症状が重いとき、思考の整理が難しいときなどは、先に安定を図る、ほかの支援を優先するなどの判断が必要です。迷うときはスーパーバイザーに相談してください
実施の資格や研修、診療報酬の要件は制度の改定で変わります。所属先の規程と最新の通知を確認してください。
関連する用語
認知行動療法の周辺には、近い考え方の言葉がいくつもあります。
- 行動療法: 学習理論にもとづき、行動の変化を直接のねらいにする流れです
- 認知療法: 認知のあり方に注目して、自動的に浮かぶ考えを検討する流れです
- マインドフルネス: 今この瞬間の体験に評価を加えずに気づく練習で、認知行動療法の流れをくむ実践にも取り入れられています。詳しくはマインドフルネスの項目を参照してください
- 心理教育: 認知行動療法の導入では、症状の仕組みや治療の進め方を伝える心理教育が大きな役割をもちます
参考文献・出典
- 厚生労働省「うつ病の認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアル」 厚生労働省のPDF
- 厚生労働省「こころの健康」認知行動療法マニュアル一覧 厚生労働省の掲載ページ
- 日本不安症学会「認知行動療法マニュアル」掲載ページ 日本不安症学会
- 厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(令和8年3月5日保医発0305第6号)別添1 医科診療報酬点数表に関する事項(I003-2 認知療法・認知行動療法)
