心理療法・技法

弁証法的行動療法(DBT)

よみ:べんしょうほうてきこうどうりょうほう別名・英語表記:DBT、Dialectical Behavior Therapy、弁証法的行動療法

弁証法的行動療法(DBT)とは、マーシャ・リネハンが自殺行動や自傷を繰り返す境界性パーソナリティ症の人のために開発した、受容と変化のバランスを重視する認知行動療法に基づく包括的な治療プログラムです。

弁証法的行動療法(DBT)とは、アメリカの心理学者マーシャ・リネハンが、自殺行動や自傷を繰り返す境界性パーソナリティ症(境界性パーソナリティ障害)の人のために開発した、認知行動療法に基づく包括的な治療プログラムです。感情の調整が難しい人に対して、「今のままの本人を受け入れること」と「変化を促すこと」という、一見矛盾する二つを同時に大切にする点が、名前にある「弁証法」の中心的な意味です。

認知行動療法の技法に、マインドフルネスや妥当性の承認(バリデーション)の考え方を組み合わせた構成で、個人面接、スキルトレーニング、電話コーチング、チームでのコンサルテーションなどを一体として運用します。現在は、境界性パーソナリティ障害に限らず、自傷や感情調整の困難を伴うさまざまな状態にも応用が検討されています。

弁証法的行動療法の考え方

DBTは、感情が生じやすく、強い反応が長引き、元の状態に戻るまでに時間がかかる生まれつきの傾向と、その感情の動きを否定されやすい環境とが相互に影響しあって、感情調整の困難が生じるという見方(生物社会理論)に立つと紹介されています。自傷や自殺行動は、耐えがたい苦痛に対処するための、本人なりの方法という文脈で理解されます。この理解のしかたは、境界性パーソナリティ症への支援で、本人を責めず、行動の意味を見立てるうえで役に立ちます。

弁証法の考え方とは、「受容」と「変化」の両方を同時に大切にすることです。つらさをそのまま認めて受けとめる関わり(妥当性の承認)と、行動や考え方を変えていくための具体的な働きかけを、バランスよく組み合わせます。受容だけでは変化が進まず、変化を求めるだけでは「わかってもらえない」と感じられやすくなります。

治療の構成と主なスキル

DBTの標準的なプログラムは、複数の要素から成り立っています。

  • 個人療法: 個別の面接で、自傷や自殺行動、治療の妨げになる行動、生活の質を下げる行動を、優先順位に沿って扱います。日記カードなどで日々の行動や感情を記録し、面接で振り返ります
  • スキルトレーニング: グループ形式で、日常で使えるスキルを学びます。宿題を使って練習します
  • 電話コーチング: 危機のときに、スキルの使い方を助言するため、面接の間にも連絡をとれる仕組みです。運用のしかたはプログラムごとに決められます
  • コンサルテーションチーム: 治療者が支えあう定期的な会合で、治療者自身の疲弊や関わり方の偏りを防ぎます

スキルは、次の4つの領域で語られることが多くなっています。

  • マインドフルネス: 今この瞬間の体験に、評価を加えずに気づく練習です。詳しくはマインドフルネスの項目を参照してください
  • 苦悩耐性: 衝動的な行動に頼らず、危機的な状況をやり過ごすためのスキルです
  • 感情調整: 感情の理解と、感情の強さや揺れを和らげるためのスキルです
  • 対人関係効果性: 自分の要望と人間関係と自尊心のバランスをとりながら、要望を伝えたり断ったりするスキルです

個人療法、4つの領域のスキル訓練、電話コーチング、チームでのコンサルテーションがそろった形が包括的なDBTとされます。日本の科学研究費の研究報告では、24時間の電話対応が国内の体制では難しいことから、スキル訓練を中心にした包括的でない形での導入も検討されています。期間や回数はプログラムによって異なるため、原典や研修の資料で確かめてください。

向いている状態とエビデンス

主な対象は、自傷や自殺行動、感情調整の困難がみられる境界性パーソナリティ障害です。コクランの系統的レビュー(2020年版、検索日は2019年3月)は、境界性パーソナリティ障害への心理療法を扱った75件のランダム化比較試験(参加者4,507人)を統合しています。この中でDBTは全研究のおよそ3分の1を占め、通常治療と比べて、症状の重さ、自傷、心理社会的機能を改善する可能性がある一方、エビデンスの確実性は低いと報告されています。

効果を述べるときは、確実性の評価まで含めて伝えることが大切です。「DBTなら効く」という断定は避けましょう。

日本の診療報酬で、DBTにそのまま対応する独立した算定項目があるかどうかは、本ページでは確認できていません。医療機関での位置づけは、所属先の規程と最新の通知を確かめてください。

実施するときの注意点

DBTを標準的な形で行うには、個人療法に加えスキルトレーニングやチームでの支えが必要です。ひとりの心理職が、DBTの一部の技法だけを取り入れる場合の注意点を挙げます。

  • 「DBTの要素を使う」と「DBTを行う」の区別: スキルの一部を紹介するのと、プログラム全体を運用するのとは、必要な体制が違います。説明の際にこの違いを本人に正直に伝えます
  • 危機への対応を先に決める: 自傷や希死念慮がある人への支援では、連絡の取り方、緊急時の対応、主治医との連携、所属先の手順を、あらかじめ決めて共有します。自傷行為への関わりは、本人の安全と、行動の意味の理解を両立させて進めます
  • 妥当性の承認と変化の働きかけのバランス: 受け入れるだけでも、変化を迫るだけでもうまくいきません。その場の本人の状態を見ながら、比重を調整します
  • 治療者自身の負担: 強い感情や危機に繰り返し向き合うため、心理職が消耗しやすい領域です。スーパービジョンやチームでの相談を欠かさないでください
  • 訓練: DBTの実施には、体系的な研修とスーパービジョンが望ましいとされています。研修の機会や所属先で可能な体制を確認してから行います
  • 医師との連携: 診断や服薬、入院の判断は主治医の領域です。方針を確かめ、役割を分担します

DBTに近い領域として、愛着と心の理解に焦点をあてるメンタライゼーションの記事も、境界性パーソナリティ障害への支援を考える参考になります。

関連する用語

  • 妥当性の承認(バリデーション): 本人の感情や行動を、その背景に照らして理解できると伝える関わりです
  • 生物社会理論: 感情の反応しやすさと、それを否定されやすい環境との相互作用で、困難が生じるという見方です
  • 認知行動療法: DBTの土台にある流れです。全体の位置づけは認知行動療法の項目にまとめています
  • 日記カード: 日々の感情や行動、スキルの使用を記録するための用紙です

参考文献・出典

  • Cochrane「Psychological therapies for people with borderline personality disorder」(2020年版) Cochraneのページ
  • マーシャ・M・リネハン(著)、大野裕(監訳)『境界性パーソナリティ障害の弁証法的行動療法 DBTによるBPDの治療』誠信書房、2007年
  • Linehan, M. M. *Cognitive-Behavioral Treatment of Borderline Personality Disorder*. Guilford Press, 1993

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