心理療法・技法
曝露反応妨害法(ERP)
よみ:ばくろはんのうぼうがいほう別名・英語表記:ERP、Exposure and Response Prevention、エクスポージャーと儀式妨害、曝露反応阻止法
曝露反応妨害法(ERP)とは、強迫観念による不安を引き起こす刺激に向き合い、不安を打ち消すための強迫行為をあえて行わずに過ごすことで、悪循環を弱めていく強迫症の中心的な行動療法です。
曝露反応妨害法(ERP)とは、強迫観念によって生じる不安や不快感を引き起こす刺激に、あえて向き合い(曝露)、その不安を打ち消すための強迫行為や回避を行わずに過ごす(反応妨害)ことを組み合わせた行動療法の技法です。英語の Exposure and Response Prevention の頭文字をとって ERP と呼ばれます。強迫症(強迫性障害)の認知行動療法の中心に位置づけられています。
強迫症では、不安を和らげるための確認や洗浄などの行為が一時的に楽をもたらし、それが次の不安を強める悪循環になっています。ERPは、この悪循環のうち「行為によって不安を処理する」部分を、本人の同意のもとで少しずつ変えていく技法です。
曝露反応妨害法の考え方
ERPの理解には、強迫症の悪循環を本人と共有することが出発点になります。ある刺激で強迫観念が生じ、不安が高まり、それを下げるために強迫行為や回避が起こり、一時的に不安が下がる。この「一時的に楽になる」経験が行為を強めるため、長い目で見ると症状が保たれます。
国の治療者用マニュアルは、強迫症は慢性化、重症化して生活を妨げやすい一方、行動療法、とくに ERP を中心にした治療が、海外の複数のランダム化比較試験で、対照群や薬物療法群より高い改善率を示したと述べています。日本国内でも同様のランダム化比較試験が行われたとされています。
曝露と反応妨害の二つは、セットで考えます。刺激に触れても強迫行為をしてしまえば悪循環は変わりません。逆に、行為を我慢するだけで刺激に向き合わなければ、課題として成り立ちにくくなります。
進め方の流れ
厚生労働省の治療者用マニュアルでは、全体を16セッション程度で構成し、ERPを主たる技法とする場合の流れを次のように示しています。
- 初回から数回(症状の把握と動機づけ): 困りごとを聞き、強迫症状の内容、重症度、巻き込み、回避を評価します。尺度としては Y-BOCS が紹介されています。あわせて心理教育を行い、行動分析で症状と生活の関係を整理します
- ERPの適応の確認: 悪循環の図などを使って ERP の考え方を説明し、治療の目標を決めます。不安階層表(SUD、主観的な苦痛の程度で並べた表)を作ります
- 課題の決定と開始: 治療同意の最終確認をしたうえで、最初の課題を決めます
- ERPの実施: 課題の実施と効果の確認、課題の修正とステップアップを繰り返します。後半の10回前後がこの段階にあたります
- 終結と再燃予防: 治療を振り返り、再燃を防ぐ工夫や、期間延長・フォローアップについて話し合います
各セッションは、ホームワークの振り返り、その回の概要の共有、ホームワークの決定、まとめとフィードバックの流れで進みます。マニュアルは、ホームワークを具体的にわかりやすく出すこと、実行できなかったときに本人だけの問題とせず、出し方に問題がなかったかを検討することを求めています。
向いている状態とエビデンス
中心的な対象は、強迫観念と強迫行為がみられる強迫症(強迫性障害)です。ただし、すべての症状が ERP に向くわけではありません。マニュアルは、ERPの適応にならない場合の例を挙げています。
- 診断に問題がある場合: 強迫観念と思われた症状が確信を伴う妄想だった場合や、うつ病による精神運動抑制だった場合などです。診断の確定と、その疾患の治療を優先するとされています
- 強迫症が主診断でも、悪循環では説明しにくい症状の場合: 不安の軽減ではなく「しっくりくる」「すっきりする」感覚を求めて行為が続く例が挙げられています。強迫性緩慢のように、ほとんどの症状が ERP に向かない場合もあるとされています
患者ごと、症状ごとに行動分析を行い、適応を判断することが求められています。また、ほかの精神疾患が併存している場合は、そちらの治療を優先するという注意も示されています(強迫症状のために二次的に抑うつ状態になっている場合は、進め方を検討するとされています)。なお保険診療では、強迫症は認知療法・認知行動療法の対象疾患で、令和8年度診療報酬改定後の通知でも、この治療者用マニュアルに従って行うことが算定の条件とされています。
実施するときの注意点
ERP は本人の積極的な取り組みが要になる治療です。心理職として、次の点に注意しておくとよいでしょう。
- 評価に時間をかける: マニュアルは、中途半端な行動分析で ERP を始めるより、評価のセッションを丁寧に重ねるほうがよいとしています。症状を丁寧に理解してもらえたという体験が、関係づくりと動機づけにつながります
- 家族の巻き込みを把握する: 家族が確認の保証をしたり、本人の代わりに行動したりして、悪循環を支えていることがあります。評価の段階で巻き込みの状況を聞き、家族への説明のしかたを本人と相談します
- ホームワークの工夫: 不潔恐怖で外のものに触れないなど、症状のために通常の宿題が難しい場合は、症状に合わせて課題を調整します
- リスクの確認: 自殺や自傷の可能性を評価し、話題に出たときは十分に話し合います。希死念慮が見られる場合は、所属先の対応手順に沿って、主治医とも連携します
- 本人のペースを尊重する: 課題は本人が納得して選べる範囲で決めます。我慢比べのようになったり、強制になったりしないよう、役割を確認し合います
- 医師との連携: 服薬や併存疾患の治療方針は、主治医に確かめて進めます
治療が進まないときは、課題が大きすぎないか、行為が別の形で残っていないか(頭の中の打ち消しなど)、家族の関わりが影響していないかを見直す視点が役立ちます。判断に迷うときは、スーパーバイザーに相談してください。
関連する用語
- 曝露療法(エクスポージャー): 不安を引き起こす対象に段階的に向き合う技法全般を指します。ERP はその中の、強迫症向けの形といえます。曝露療法の項目を参照してください
- 認知行動療法: ERP は、強迫症の認知行動療法の主要な技法として位置づけられています。技法全体の位置づけは認知行動療法の項目にまとめています
- 確認行為・洗浄行為・巻き込み・回避: 強迫症のアセスメントで整理する、症状の内容や周囲への影響をさす言葉です
参考文献・出典
- 厚生労働省「強迫性障害(強迫症)の認知行動療法マニュアル(治療者用)」 厚生労働省のPDF
- 日本不安症学会「認知行動療法マニュアル」掲載ページ。強迫症マニュアルの差し替え版が掲載されている旨が厚生労働省のページに記載されています 日本不安症学会
- 厚生労働省「こころの健康」認知行動療法マニュアル一覧 厚生労働省の掲載ページ
