心理療法・技法
曝露療法(エクスポージャー)
よみ:ばくろりょうほう別名・英語表記:エクスポージャー、エクスポージャー療法、暴露療法、Exposure Therapy
曝露療法(エクスポージャー)とは、不安や恐怖を引き起こす対象や状況に、安全を確保しながら段階的に向き合い、回避によって保たれてきた不安を弱めていく心理療法の技法です。
曝露療法(エクスポージャー)とは、不安や恐怖を引き起こす対象、状況、記憶に、計画を立てて繰り返し向き合うことで、避けることで保たれてきた不安や恐怖を弱めていく技法です。認知行動療法の中でも、不安症や強迫症、PTSDなどの支援で中心的な役割をもつ技法として知られています。「暴露」と書かれることもありますが、心理療法の用語としては「曝露」が一般的です。
不安な場面を避けると、その場の不安は和らぎます。しかし「避ければ楽になる」という学習が積み重なり、避ける範囲が広がって生活が狭まっていきます。曝露療法は、この回避の悪循環を、本人の同意のもとで少しずつ崩していく考え方に立っています。
曝露療法の考え方
曝露療法の土台には、回避が不安を維持するという見方があります。恐れている状況に身を置いても、予想したような悪いことが起きない、あるいは不安が時間とともに下がるという体験を重ねることで、恐れの学習が書き換わっていくと説明されます。
PTSDの持続エクスポージャー療法を説明した国の資料では、情動処理理論という考え方が土台に置かれています。トラウマに関連する刺激や記憶を極度に避けたために、記憶が十分に処理されず、症状が長引くという理解です。実際の治療では、記憶や状況への直面を通じて、トラウマとなった出来事と、似てはいるが危険ではない出来事の区別がつくようになることがねらいとされています。
不安の下がり方については、同じ面接の中で不安が下がる体験を重視する立場と、不安が下がらなくても予測が外れる体験を重視する立場があります。どう説明するかは理論によって異なるため、使っているプロトコルの考え方に沿って、本人にわかりやすく伝えます。
進め方の流れ
一般的な進め方を、段階ごとに整理します。
- 評価と見立て: 何を避けているか、どんな安全確保行動(お守り代わりの行動)があるかを聞き取り、症状の程度を尺度などで把握します
- 心理教育: 不安と回避の悪循環、曝露のねらい、途中でつらくなる場面があることを説明し、同意を得ます。心理教育で伝え方を整えておくことが、継続の鍵になります
- 不安階層表の作成: 不安や苦痛を感じる状況を、主観的な苦痛の程度で並べた一覧を、本人と一緒に作ります
- 段階的な曝露: 比較的取り組みやすい項目から始め、慣れてきたら次の項目に進みます。面接の中で行うことも、ホームワークとして生活の中で行うこともあります
- 振り返りと再発予防: 取り組みの結果を話し合い、予測と実際の差を確かめます。終結に向けて、本人が自分で続けられるようにしていきます
曝露の種類としては、実際の場面に身を置く現実曝露(実生活内曝露)と、想像の中で場面や記憶に向き合う想像曝露があります。PTSDの持続エクスポージャー療法では、この二つが組み合わされ、想像曝露は録音して自宅でも聞き返す形で行われます。国の資料では、通常1回90分のセッションを10〜12回、場合によっては15回ほど行う構成とされています。
向いている状態とエビデンス
国の厚生労働科学研究にもとづく治療者用マニュアルでは、強迫症、社交不安症、パニック症、PTSDの認知行動療法が紹介されています。このうち強迫症のマニュアルは曝露反応妨害法を、PTSDのマニュアルは持続エクスポージャー療法を中心に据えています。厚生労働省のページには曝露療法だけを扱うマニュアルはありません。令和8年度診療報酬改定後の通知でも、PTSDに対する認知療法・認知行動療法は、持続エクスポージャー療法のマニュアルか、国立精神・神経医療研究センター研究班の認知処理療法のマニュアルに従って行うことが算定の条件とされています。
- パニック症や社交不安症では、不安を感じる場面や身体の感覚に段階的に向き合う課題が組み込まれることがあります
- 強迫症では、不安を引き起こす刺激に向き合ったうえで、不安を打ち消す行為を行わない組み合わせが用いられます
- PTSDでは、回避してきた状況やトラウマ記憶に向き合います
効果や適応の範囲は、疾患やプロトコルによって異なります。診療ガイドラインや原典で確かめてから説明してください。
実施するときの注意点
曝露は、本人にとって一時的に苦痛が増す場面を含むため、心理職側の判断と準備が欠かせません。
- 適応の見極め: 国のPEの資料は、切迫した自殺や他害・自傷の恐れがない場合などを適応の目安に挙げ、物質の乱用や依存、重度の解離症状、危険な住環境、罪悪感や恥の感覚が顕著な場合などは、実施に検討が必要としています。リスクの評価は開始前だけでなく、経過の中でも続けます
- 安全の確保: 被害が続いている場合は、まず安全の確保を優先します
- 本人の主導権を保つ: 曝露の課題は、本人が納得して選べる範囲で決めます。強いることは避け、いつでも立ち止まって相談できる関係を保ちます
- 同意と説明: 途中で苦痛が高まりうること、課題をやらないという選択もできることを事前に伝えます
- 技術と訓練: 曝露の課題の組み立てや、苦痛が強まったときの判断には専門的な技術が要ります。PEのように手順が定められたプログラムは、研修を受け、スーパービジョンで相談できる環境を整えてから行います
- 医師との連携: 服薬の状況や併存疾患の治療方針は、主治医に確かめて連携します
「不安が高いほど効果が出る」「頑張って耐えさせる」といった受け取り方は、中断の原因になりえます。本人のペースと動機を尊重しながら進めることが、継続につながります。
関連する用語
- 曝露反応妨害法(ERP): 強迫症に用いる、曝露と不安を打ち消す行為を行わないことを組み合わせた技法です。曝露反応妨害法の項目で説明しています
- 系統的脱感作: 筋弛緩などの不安と両立しない反応と組み合わせて、段階的に向き合う古典的な技法です
- 行動実験: 予測を現実の行動で確かめる技法で、曝露と近い考え方です
参考文献・出典
- 厚生労働省「PTSD(心的外傷後ストレス障害)の認知行動療法マニュアル(治療者用)[持続エクスポージャー療法/PE療法]」 厚生労働省のPDF
- 厚生労働省「こころの健康」認知行動療法マニュアル一覧 厚生労働省の掲載ページ
- エドナ・B・フォア、エリザベス・A・ヘンブリー、バーバラ・O・ロスバウム(著)、金吉晴・小西聖子(監訳)『PTSDの持続エクスポージャー療法 トラウマ体験の情動処理のために』星和書店、2009年(原著: Foa, E., Hembree, E., Rothbaum, B. Prolonged Exposure Therapy for PTSD. Oxford University Press, 2007)
