疾患・状態
PTSD(心的外傷後ストレス症)
よみ:ぴーてぃーえすでぃー別名・英語表記:心的外傷後ストレス障害、心的外傷後ストレス症、Post Traumatic Stress Disorder
PTSD(心的外傷後ストレス症)とは、生死に関わる出来事などを体験した後、記憶の再体験、回避、過覚醒などが1か月以上続いて生活に支障が出る状態です。心理職は安全の確保、心理教育、心理療法で支援に関わります。
PTSD(心的外傷後ストレス症、心的外傷後ストレス障害)とは、死の危険や重いけが、性暴力などにさらされる体験の後に、その記憶が自分の意志と関係なくよみがえる、避ける、神経が張りつめる、といった反応が長く続き、生活に支障が出る状態です。病名は、日本精神神経学会の DSM-5 の翻訳ガイドライン(2014年)では「心的外傷後ストレス障害」、DSM-5-TR の日本語版(2023年)以降の文献では「心的外傷後ストレス症」と表記されます。
国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」では、体験から1か月以上たっても症状が続く場合にPTSDを考える、と説明されています。出来事の直後は多くの人に不安や不眠などが生じますが、数か月のうちに落ち着く人も少なくありません。つらい体験をした人全員がPTSDになるわけではなく、「心の弱い人がなる」ものでもないとされています。
PTSDの主な特徴
症状は大きく、次の4つのまとまりで理解されます。診断基準の項目や必要数は、DSM-5-TR や ICD-11 の原典で確認してください。ここでは実務で押さえたい特徴だけを述べます。
- 再体験: 体験の記憶が突然よみがえる、悪夢を繰り返し見る、当時に戻ったように感じる。いわゆるフラッシュバックです
- 回避: 記憶を呼び起こす場所、人、話題、考えを避ける。回避が増えるほど行動が制限されます
- 認知や気分の否定的な変化: 自分や世界を強く否定的にとらえる、自責や不信、感情の麻痺、人との距離
- 過覚醒: 常にイライラする、驚きやすい、警戒が強い、眠れない、集中できない
ICD-11 では、「再体験」「回避」「現在の脅威の感覚の持続」を中心とする比較的絞った構成で整理されていると説明されることがあります。複雑性PTSDという別の診断も設けられていますが、扱いは原典と専門書で確認してください。
似ている状態との違い
出来事の後の反応は、時期と経過、症状の中心で見分けを考えます。
- 急性ストレス反応や適応障害との違い: 出来事の直後の反応は多くの人に起こります。症状が出来事から1か月以内に収まる場合は、急性ストレス症(急性ストレス障害)などとして区別されます。ストレス因が命の危険のような強度でなくても、生活上の変化に反応して生じるものは適応障害の範囲です
- うつ病や不安症の併存: PTSDではうつ病や不安症の併存がよく見られます。こころの情報サイトでも、併存する症状への治療で楽になる場合があると述べられています
- 解離との関係: 出来事の最中や後に、現実感が薄れる、記憶が抜けるなどの解離が見られることがあります。支援の進め方に影響するため、アセスメントで確かめます
心理職が支援するときのポイント
PTSDの支援で最初に大切なのは、安全と安心の確保です。現在も加害者との接触が続いていないか、住まいや生活は安全かを確かめます。被害の内容によっては、警察の犯罪被害の相談窓口や行政の窓口、精神保健福祉センターなどとつなぐことも大切です。
アセスメントで聞くことは次のとおりです。
- 出来事の種類と時期、現在も続く脅威の有無
- 再体験、回避、過覚醒、否定的な認知などの症状と、その生活への影響
- 睡眠、飲酒や薬物の使用、自傷や希死念慮のリスク
- 併存するうつや不安、解離、身体症状
- 支えになる人や場、通院や服薬の状況
面接では、本人のペースを最優先にします。出来事の詳細を早い段階で語らせようとすると、かえって症状を強めてしまうことがあります。話さなくてよいこと、話したくなったらいつでも話せることを最初に伝えます。こうした関わりの土台となる考え方はトラウマインフォームドケアで整理されています。
また、症状が出ていることは「おかしい」ことではなく、強い体験に対する理解できる反応であると伝える心理教育が、自責の軽減に役立ちます。
よく使われる心理療法・アプローチ
こころの情報サイトは、中心となる治療をトラウマに焦点を当てた認知行動療法とし、その例に、持続エクスポージャー療法(PE)、認知処理療法(CPT)、眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)を挙げています。これらはトラウマ記憶に焦点を当てる専門的な方法で、実施には所定の研修と、スーパービジョンなどの体制が必要です。
実務上は次の点に注意します。
- 専門的な技法を使えない場合でも、安全な関係の中で話を聞いて理解されたと感じられること自体が助けになる場合がある、とこころの情報サイトは述べています
- トラウマ記憶に向き合う曝露療法などをいつ始めるかは、現在の安全、生活の安定、本人の同意、主治医やチームの方針を踏まえて決める。現在も危険が続いている時期に記憶の処理を急がない
- 薬物療法は医師の領域です。心理職は服薬の助言をせず、主治医の方針を確かめて連携する
- 面接を重ねる中で心理職自身が影響を受けることがあります。スーパービジョンや同僚との共有で自分を守る
参考文献・出典
- 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト PTSD」 https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=iGkwv4PNzgWhQ9xI
- 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 行動医学研究部「不安との付き合い方」 https://www.ncnp.go.jp/nimh/behavior/anxiety/index.html
- 日本精神神経学会 精神科病名検討連絡会「DSM-5 病名・用語翻訳ガイドライン(初版)」精神神経学雑誌 116巻6号、2014年 https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/dsm-5_guideline.pdf
- American Psychiatric Association (2022) Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision (DSM-5-TR). American Psychiatric Association Publishing.
- 日本精神神経学会(日本語版用語監修)、髙橋三郎・大野裕(監訳)『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、2023年
