疾患・状態
摂食症(摂食障害)
よみ:せっしょくしょう別名・英語表記:摂食障害、食行動症および摂食症、Eating Disorders
摂食症(摂食障害)とは、食事の量や食べ方の異常が続き、体重や体型のとらえ方を中心に心と体の両方に影響が及ぶ状態の総称です。神経性やせ症や神経性過食症などがあり、身体管理と心理支援の連携が欠かせません。
摂食症(摂食障害)とは、食事の量や食べ方などの行動の異常が続き、体重や体型のとらえ方を中心に、心と体の両方に影響が及ぶ状態をまとめて呼ぶ言葉です。国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」では、代表的なものとして神経性やせ症、神経性過食症、過食性障害が挙げられています。
病名は、日本精神神経学会の DSM-5 の翻訳ガイドライン(2014年)では「食行動障害および摂食障害群」でしたが、DSM-5-TR の日本語版(2023年)以降は「食行動症及び摂食症群」と「症」を使う表記になっています。現場では「摂食障害」という呼び方がまだ一般的です。
摂食症の主な特徴
こころの情報サイトによると、摂食障害は10代から20代の若者に多く、女性の割合が高いものの、年齢、性別、育った環境を問わず、誰にでも起こりうるとされています。患者数については、東京都の普及啓発資料が、厚生労働科学研究の研究班による2017年度のレセプト情報(NDB)の集計をもとに、全国の外来患者を約21万人、入院患者を約1万人と推計しています。受診していない人はこの数に含まれないため、支援の場で出会う人の中には未受診の人もいると考えておくとよいでしょう。
症状は多様です。主なものを分けて見ておきます。
- 食べ方の症状: 絶食や極端な制限、自分では止められない大量の食事、意図的な嘔吐、下剤や利尿剤の使用、過剰な運動
- 体重や体型へのとらわれ: 強いやせ願望、体重が増えることへの恐怖、他人から見ると明らかにやせていても「ちょうどいい」「太っている」と感じる
- こころの状態: 自尊心の低さ、抑うつや不安、周囲からの孤立。自分が病気だとは思っていない場合も多い
- からだの状態: 月経の停止や不規則、極端な体重の変動、疲れやすさ、寒がり、嘔吐に伴う歯や唾液腺の変化
これらのすべてが全員にあてはまるわけではありません。また、病型は経過のなかで移り変わることがあります。診断基準の詳細は DSM-5-TR や ICD-11 の原典で確認してください。
似ている状態との違い
摂食症は、他の状態と重なり合いやすいため、整理の視点が必要です。
- 身体疾患や薬の影響による体重変化: やせや食欲の変化は身体の病気でも起こります。まず医学的な確認が必要です
- うつ病: 食欲の低下はうつ病にも見られますが、体重や体型へのとらわれがあるかどうかが手がかりになります
- 強迫症: 食事や体重にまつわる儀式的な行動が目立つ場合は、強迫症との併存も考えます
- 自傷や衝動性: 過食や嘔吐とともに自傷行為、飲酒、衝動的な行動が見られる場合は、感情調整の困難さも含めた見立てが必要です。境界性パーソナリティ症の特徴と重なるケースもあります
- 発達の特性: こだわりや感覚の過敏さが食事の問題に影響していることがあり、自閉スペクトラム症の視点が有益な場合があります
心理職が支援するときのポイント
摂食症の支援では、身体の安全の確認が最優先です。低体重や嘔吐、下剤の使用がある場合、心理面接だけで進めることはできません。医師による身体の評価と管理が前提になり、心理職は医療と連携しながら関わります。
アセスメントでは次のようなことを確かめます。
- 現在の食事の内容と量、食べ方、嘔吐や下剤などの行為の頻度
- 体重の推移と、体重や体型についての考え方、体重測定の習慣
- 月経、めまい、動悸、失神など身体の症状と、受診歴・かかりつけの有無
- 抑うつ、不安、希死念慮、自傷、飲酒や薬物の使用
- 家族や周囲の食事への関わり方、学校・職場での状況
- 本人が症状をどう感じているか。症状を「困っているもの」と見ているか、「手放したくないもの」と見ているか
面接では、食べ方や体重の話題だけに焦点が当たりすぎないよう気をつけます。症状が、本人にとって不安や感情をやりすごす手段になっている場合が多く、その役割に敬意を持ちながら話を聞くことが大切です。受診や治療に気が進まない人には、動機づけ面接の姿勢が役立ちます。症状を責めたり、食べることを強いたりする関わりは避けます。
家族支援も重要です。家族が食事や体重のことで本人と対立しやすいため、病気の仕組みを説明し、家族を責めない関わり方を伝える心理教育が役立ちます。
よく使われる心理療法・アプローチ
こころの情報サイトでは、治療が信頼関係づくり、病気の説明、回復への動機づけ、症状のモニタリング、身体管理、栄養指導、心理療法、併存する精神疾患への対処などで成り立つ、と整理されています。心理療法については、摂食症に特化した認知行動療法や、家族を巻き込む方法などが専門的に用いられます。実施には専門的な研修が必要で、病型や年齢によって選択が変わります。
実務上の注意は次のとおりです。
- 心理療法の選択や体重回復の目標、入院の判断は医師を中心としたチームで決める
- 食事や体重の記録は症状のモニタリングとして使い、本人を責める材料にしない
- 薬物療法は補助的に用いられることがあるとされますが、薬の選択や量は医師の領域であり、心理職は助言しない
- 低体重が進む、失神する、自殺の危険が高まるといった緊急のサインがあれば、すぐに医療につなぐ
関連する用語
参考文献・出典
- 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト 摂食障害」 https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=daWRhKdTNvsjgjM5
- 東京都福祉局「摂食障害 〜神経性やせ症・神経性過食症を中心に〜」 https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/fukushi/r4sesshokushogai-1
- 日本精神神経学会 精神科病名検討連絡会「DSM-5 病名・用語翻訳ガイドライン(初版)」精神神経学雑誌 116巻6号、2014年 https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/dsm-5_guideline.pdf
- American Psychiatric Association (2022) Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision (DSM-5-TR). American Psychiatric Association Publishing.
- 日本精神神経学会(日本語版用語監修)、髙橋三郎・大野裕(監訳)『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、2023年
