疾患・状態
双極症(双極性障害)
よみ:そうきょくしょう別名・英語表記:双極性障害、躁うつ病、bipolar disorder、双極症I型、双極症II型
双極症とは、気分が極端に高まる躁状態や軽躁状態と、落ち込むうつ状態をくり返す精神疾患です。うつ病との区別、心理教育、再発の兆候の共有など心理職の支援の要点をまとめます。
双極症(双極性障害)とは、気分や活動性が極端に高まる躁状態(程度が軽い場合は軽躁状態)と、気分が落ち込み意欲が失われるうつ状態を、期間をおいてくり返す精神疾患です。かつて「躁うつ病」と呼ばれていたことから、うつ病の一種と誤解されやすいのですが、両者は別の病気で、治療の考え方も異なります。
心理職が出会う場面では、「うつ病として相談に来たが、過去に双極症の波があった」というケースが少なくありません。本人が気づいていない躁や軽躁のサインをていねいに拾い上げ、医療につなぎ、再発を防ぐための心理教育を支えることが、支援の中心になります。
双極症の主な特徴
国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」では、双極性障害は躁状態とうつ状態をくり返す病気と説明されています。躁状態では、眠らなくても活発に動ける、次々にアイデアが浮かぶ、根拠のない自信に満ちる、多額の買い物やギャンブルに走るといった様子がみられます。
躁状態の本人は気分が良く、病気の自覚がないことが多いため、うつ状態のときだけ受診し、躁状態のときは治療を受けないことがよくあります。周囲の人が気づく手がかりが重要になる理由です。また、経過の中では、躁状態よりうつ状態の時期のほうが長引きやすいとされています。
診断では、躁状態の重さや期間で「I型」と「II型」などに分けて考えます。具体的な基準は DSM-5-TR や ICD-11 の原典で確かめてください。要点として、軽躁にとどまっても双極症に含まれる場合がある点を押さえておきましょう。
頻度について、同サイトでは、日本での患者さんの割合は軽症も含めて0.4〜0.7%といわれ、うつ病より少ないと記載されています。数字を使う際は、調査の年や方法も原典で確かめてください。
似ている状態との違い
最も重要なのは、うつ病との区別です。うつ状態の症状だけを見ると、両者は似ています。同サイトには、うつ病の治療をしても改善しにくい人が実は双極症だった例や、反対にうつ病なのに回復後の元気さを軽躁と見誤られた例があると記載されています。
ほかにも、次のような状態との見分けが必要です。
- ADHD などの発達特性:落ち着きのなさや衝動性が、慢性的な特性なのか、期間をもった気分の変化なのか
- 境界性パーソナリティ症:感情の揺れが数時間から数日単位で、対人関係の出来事に反応して起こりやすいのか
- 物質の影響や身体疾患:アルコールや薬物、甲状腺の不調などで似た状態が出ることがある
- 統合失調症などの精神病性の症状との重なり:重い躁状態では妄想などが出ることもある
見分けるのは医師の診断の領域です。心理職は、経過と生活への影響を整理した情報を、医師へ伝えられるようにしておきます。
心理職が支援するときのポイント
アセスメントでは、うつ状態を訴える相談者に対して、次のことを丁寧に聞きます。
- これまでに、ふだんと明らかに違う高い気分や活動性が数日続いたことはないか
- そのとき、睡眠の減り、多弁、浪費、衝動的な行動、人間関係の変化はなかったか
- 家族や身近な人から「あのときは様子が違った」と言われたことはないか
- 気分の波が現れる前に起きた出来事や、睡眠リズムの乱れ
- 抗うつ薬を始めた後に急に調子が上がったなど、治療との関係
躁状態の自覚が乏しいので、本人の記憶だけに頼らず、本人の同意のもとで家族からの情報も参考にします。気になる経過があれば、診断の見直しを医師に相談するよう勧めます。
リスク対応も欠かせません。うつ状態では重い抑うつ気分や希死念慮が、躁状態では衝動的な行動や浪費、対人トラブルが生活を脅かします。危機が高まったときの連絡先や受診先を、落ち着いているときに本人と共有しておきます。気分が高まっている時期には、退職や高額な契約など大きな決断を急がず、主治医や家族に相談してから決めるという約束を、安定している時期に話し合っておくことも役立ちます。
治療について、同サイトは、薬物療法を基本に治療を組み立てるものであり、面接だけで回復を目指す性質のものではないとしています。薬の種類や量の判断は医師が行うことです。心理職は服薬の助言をせず、「きちんと服薬の相談ができているか」を支えます。
よく使われる心理療法・アプローチ
双極症で心理職に求められる中心的な役割は、心理教育です。同サイトでは、病気を知り、受け入れ、自分で病気をコントロールすることを助ける心理教育が重要とされています。再発の兆候に早く気づければ、早期に治療を始められるためです。
心理教育で取り上げる内容には、次のようなものがあります。
- 病気の特徴と、うつ病との違い
- 睡眠や生活リズムを整えることの意味
- 自分の再発のきざし(睡眠時間の減少、話し方や買い物の変化など)の一覧づくり
- きざしが出たときの行動計画(主治医への連絡、予定を減らすなど)
- 家族や職場に伝える範囲と方法
国内では日本うつ病学会が『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極症2023』を出しています。生活リズムや対人関係を整える方法や、認知行動療法の考え方を取り入れた心理社会的な支援を検討する場合は、ガイドラインの記述と主治医の方針を確かめたうえで、薬物療法と並行する形で計画します。
初回の聞き取りは、インテーク面接の流れを土台にして、気分の波の経過表をつくると整理しやすくなります。
関連する用語
- 抑うつ気分:うつ状態の中心となる症状
- うつ病:区別が必要な疾患
- 心理教育:双極症の支援の中心となる関わり
- 希死念慮:うつ状態でのリスク評価の対象
参考文献・出典
- 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所「こころの情報サイト 双極性障害(躁うつ病)」 https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=RM3UirqngPV6bFW0
- 日本うつ病学会 ホームページ(診療ガイドライン) https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/
- 日本うつ病学会(監修)、気分障害の治療ガイドライン検討委員会・双極性障害委員会(編)『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極症2023』医学書院、2023年
- 厚生労働省「こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」 https://kokoro.mhlw.go.jp/
