疾患・状態
社交不安症(社交不安障害)
よみ:しゃこうふあんしょう別名・英語表記:社交不安障害、SAD、social anxiety disorder、社会不安障害、対人恐怖
社交不安症とは、人前で話す、注目される、評価されるといった場面に強い不安や恐怖を感じ、そうした場面を避けるために学業や仕事、対人関係に支障が出る不安症の一つです。
社交不安症(社交不安障害)とは、人前で話す、人から注目される、評価されるといった社会的な場面に対して強い不安や恐怖を感じ、そうした場面を避けたり、強い苦痛に耐えながら過ごしたりするために、学業、仕事、対人関係などに支障が出る不安症の一つです。以前は「社会不安障害」とも呼ばれ、日本で古くから使われてきた「対人恐怖」とも重なる部分があります。
誰にでも人前で緊張する場面はあります。社交不安症では、「恥をかくのではないか」「悪く思われるのではないか」という恐れが現実の状況に比べて強く、避けることで生活の幅が狭くなります。心理職は、恐れの内容と回避のパターンを見立て、認知行動療法を中心に支援することが多い領域です。
社交不安症の主な特徴
国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」では、社交不安症を、他の人々の前に出たり、特に話をしたり、注目され評価される状況に強い不安を覚え、その状況から遠ざかるようになる状態と説明しています。恥ずかしい、悪く思われているなど、悪い方向に考えてしまうことが多く、気心の知れた人や、こちらに関心を向けない他人の前では不安が出ない場合もある、とされています。
診断基準そのものは DSM-5-TR や ICD-11 の原典で確かめてください。要点としては、他者から注視される可能性のある状況への恐れが、状況に不釣り合いに強く、長く(DSM-5-TR では半年以上、ICD-11 では数か月以上が目安)続き、回避や強い苦痛を伴って生活に支障が出ていることが目安です。期間や項目は原典を確認してください。
面接でよく語られる場面は、次のようなものです。
- 会議や授業での発言、発表、自己紹介
- 初対面の人との会話、雑談
- 人前での食事、文字を書く、電話に出る
- 上司や目上の人とのやり取り
- 顔が赤くなる、声や手が震える、汗をかくなどの身体反応を気にされること
似ている状態との違い
不安症のなかでの位置づけを整理します。不安の中心が評価される場面にあるかどうかが、見分けの手がかりです。
- パニック症:予期しない発作と、その再発への不安が中心
- 全般不安症:場面を限らず、さまざまな事柄への心配が広く続く
- 限局性恐怖症:特定の対象や状況に限った恐怖。社交の場面とは限らない
- 自閉スペクトラム症:対人場面の困難があっても、他者の評価への恐れが中心でない場合がある。発達特性と不安の併存も多く、見立てが難しい
- うつ病:意欲低下から人付き合いを避けているのか、評価への恐れから避けているのかを確かめる
- 選択性緘黙:特定の場面で話せなくなる状態。子どもの面接では重なりを意識する
併存することも多いため、不安だけを見て終わらず、気分の落ち込みや睡眠、飲酒の状況も確認します。
心理職が支援するときのポイント
アセスメントでは、次の点を具体的に聞きます。
- 不安が強まる場面と、そこで予想している最悪の結果(「声が震えて笑われる」など)
- そのとき自分がどう見えていると思っているか、注意が自分自身に向いていないか
- 避けていること、強い不安に耐えて我慢していること
- 安全行動(下を向く、台本を丸暗記する、飲み物で緊張を紛らわす、早めに退席するなど)
- 生活への影響(就職、通学、昇進、交友関係)と、いつから始まったか
- 医療機関の受診歴、主治医の方針、他の症状の有無
支援の姿勢として、「気にしすぎ」「場数を踏めば慣れる」といった励ましは、本人の恥の感覚を強めることがあるため避けます。つらさを受けとめたうえで、不安のしくみを一緒に理解します。
心理教育では、次のことを伝えます。
- 人前での緊張は自然な反応であり、強すぎて避けるようになると生活に影響が出る
- 避けたり安全行動に頼ったりすると、その場しのぎで楽になる反面、「やはり危険だった」という思い込みが保たれやすい
- 同サイトの記述のとおり、不安は最初の5分間ほどが最も強く、その後は軽くなっていくことが多い
評価への恐れが強いと、面接場面でも「変に思われていないか」と気にしがちです。心理職自身が評価的な態度をとらず、安心して話せる関係づくりを心がけます。
よく使われる心理療法・アプローチ
同サイトは、不安症の治療として認知行動療法が薬物療法と同じか、それ以上の効果が知られているとしています。社交不安症では、次のような要素が使われます。
- 恐れている結果についての予測を書き出し、実際に試して確かめる行動実験
- 自分に向きすぎた注意を外へ向け直す練習
- 安全行動を減らし、本来の自分の様子や相手の反応に気づく
- 避けてきた場面に段階的に近づく曝露療法
- 場面を録画して見直し、自分の見え方についての思い込みを検討する
2021年には、日本不安症学会と日本神経精神薬理学会による「社交不安症の診療ガイドライン」が学会誌『不安症研究』に掲載されています。現場で使うときは原典の記述を確かめてください。
進め方の全体は認知行動療法のやり方も参照してください。グループで練習する形式もありますが、実施には所属先の体制や同意の確認が必要です。薬物療法は医師の領域であり、心理職は服薬の助言をせず、主治医と連携します。
関連する用語
- 自閉スペクトラム症:対人場面の困難との見分けが必要
- うつ病:併存や見分けが必要な疾患
- パニック症:同じく不安症に含まれる疾患
- 曝露療法:回避を減らすために用いられる技法
参考文献・出典
- 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所「こころの情報サイト 不安症」 https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=BLA9JV0KhiWPIMzX
- 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 行動医学研究部「不安との付き合い方」 https://www.ncnp.go.jp/nimh/behavior/anxiety/index.html
- 日本不安症学会・日本神経精神薬理学会「社交不安症の診療ガイドライン」『不安症研究』13巻1号、53-111頁、2021年 https://doi.org/10.14389/jsad.13.1_53
- American Psychiatric Association(編)、日本精神神経学会(日本語版用語監修)、髙橋三郎・大野裕(監訳)『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、2023年
