疾患・状態
自閉スペクトラム症(ASD)
よみ:じへいすぺくとらむしょう別名・英語表記:自閉症スペクトラム障害、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害、ASD、Autism Spectrum Disorder
自閉スペクトラム症(ASD)とは、社会的なやりとりやコミュニケーションの持続的な難しさと、限定された興味や反復的な行動、感覚の偏りを特徴とする神経発達症です。
自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害、ASD)とは、他者との社会的なやりとりやコミュニケーションに持続的な難しさがあり、限定された興味や反復的な行動、感覚の偏りが見られる神経発達症の一つです。幼少期から特性が現れ、程度や現れ方には幅があるため「スペクトラム(連続体)」と呼ばれます。
心理職にとっては、診断名そのものよりも、その人がどんな場面で困り、どんな環境なら力を発揮できるかを具体的に見立てることが仕事の中心になります。診断や医学的な判断は医師が行い、心理職は評価と環境調整、本人と周囲への心理教育を担います。
自閉スペクトラム症の主な特徴
診断基準(DSM-5-TR、ICD-11)では、大きく二つのまとまりで特徴を整理しています。条件の細かい文言や項目数は著作物ですので、詳しくは原典を確認してください。
- 社会的コミュニケーションと対人相互性の難しさ: 相手の気持ちや場の暗黙のルールをくみ取りにくい、会話のやりとりが一方的になりやすい、視線や表情などの非言語的なサインの使い方や読み取りが独特である、といった形で現れます
- 限定された反復的な行動・興味: 特定の分野への強い関心、同じ手順や順序へのこだわり、予定や環境の変化への強い不安、同じ動作や言葉の反復などが見られます
- 感覚の特異性: 音、光、肌ざわり、においなどへの過敏さや鈍感さがあります。DSM-5以降は、限定された反復的な行動の領域に含まれています
厚生労働省の資料でも、見通しが立たないと不安が強くなる一方、見通しが立つと物事をきっちり進められること、人混みなどの感覚刺激に敏感なことがあることが特性の例として示されています。つまり、困りごとは「特性そのもの」より「特性と環境の組み合わせ」で生じます。
特性は幼少期から存在しますが、社会的な要求が特性を上回るまで目立たず、成人してから初めて気づかれることもあります。知的な遅れの有無や言語能力の水準は人によって大きく異なります。
似ている状態との違い
ASDは、ほかの状態と見分けが難しいことや、併存することがあります。心理職が見立てるときは「似ているから同じ」ではなく、発達の経過を丁寧に聞くことが大切です。
- ADHD(注意欠如多動症): 注意の持続や衝動性の問題が中心です。ASDと併存することも多く、両方の特性を見立てます。くわしくはADHDを参照してください
- 社交不安症: 人前での評価への恐れが中心で、幼少期からの対人的なやりとりの特性や限定された興味の有無で見分けます。くわしくは社交不安症(社交不安障害)を参照してください
- 強迫症: 反復行動の背景に、不安を打ち消す意図があるか、こだわりそのものが安心や楽しさにつながっているかを確かめます
- 愛着や養育環境に関する問題、トラウマ関連の状態: 対人関係の持ちにくさが似て見えることがあり、生育歴や現在の安全の状況を含めて慎重に見ます
- うつ病や不安症などの二次的な不調: ASDの人は、周囲との摩擦や疲弊から二次的に抑うつや不安を抱えて受診・来談するケースが少なくありません
心理職が支援するときのポイント
実務では、特性を「直す」のではなく、本人の強みを生かしながら困りごとを減らす方向で考えます。
アセスメントで確かめること
- 主訴の背景にある具体的な場面(いつ、どこで、誰と、何が起きて困ったか)
- 幼少期から現在までの発達の経過、学校や職場での適応の様子
- 感覚の過敏さ・鈍感さ、疲れやすさ、見通しの持ちやすさ
- 二次障害(抑うつ、不安、不登校・休職、自傷など)と、安全面のリスク
- 本人の強み、関心、支えになっている人や場所
発達検査や知能検査は、特性の把握や支援方針を考える材料になります。たとえば成人ではWAIS(ウェクスラー成人知能検査)、児童ではWISC(ウェクスラー児童用知能検査)が使われます。検査の結果だけで診断を決めることはできず、診断は医師が行います。検査の位置づけは心理検査の種類と特徴も参考になります。
面接での配慮
- 抽象的な質問より、具体的で答えやすい質問にします。「最近どうですか」ではなく「先週の月曜日は何がありましたか」のように場面を絞ります
- 面接の流れ、所要時間、終わりの合図を先に伝え、見通しを持てるようにします
- 部屋の照明、音、においなど、感覚面の負担を事前に確認して調整します
- 言葉の裏の意味や比喩に頼らず、伝えたいことは明確な言葉で伝えます
- 本人の話し方や視線のそらし方を「関心がない」と解釈せず、その人のコミュニケーションのスタイルとして受け止めます
- 視覚的な資料(図、メモ、スケジュール)を併用すると、理解や記憶の助けになることがあります
連携と環境調整
支援は個人面接だけで完結しません。学校、職場、家族、医療機関、地域の支援機関と連携して、環境を調整することが中心になります。連携のときは、本人の同意を得て、共有する範囲を決めます。守秘義務の考え方は公認心理師の守秘義務とはも参考にしてください。
発達障害者支援法に基づく発達障害者支援センターなど、公的な相談先があります。地域の窓口は、国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターのサイトで確認できます。
よく使われる心理療法・アプローチ
ASDの支援では、特性を前提にした方法が選ばれます。効果の程度は人や状況で異なり、主治医の方針と合わせて進めます。
- 心理教育: 本人と家族に、特性の理解と対処の工夫を伝えます。診断の受け止めを支える働きもあります。心理教育を参照してください
- ソーシャルスキルトレーニングなどの行動的アプローチ: 場面ごとの具体的なやり方を練習します
- 認知行動療法の調整版: 二次的な不安や抑うつに対して、具体的・構造的に進めるなど調整して使います。認知行動療法(CBT)を参照してください
- 環境調整・合理的配慮の検討: 職場や学校での配慮を言語化し、本人と一緒に整理します
関連する用語
- ADHD(注意欠如多動症)
- 心理教育
- WAIS(ウェクスラー成人知能検査)
参考文献・出典
- 米国精神医学会(編)、日本精神神経学会(日本語版用語監修)、髙橋三郎・大野裕(監訳)『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、2023年
- 厚生労働省「発達障害の特性(代表例)」(事業主向けeラーニング) https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/jigyounushi/e-learning/hattatsu/characteristic.html
- 国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター https://www.rehab.go.jp/ddis/
- 日本精神神経学会「精神神経学用語集」「病名・用語の翻訳ガイドライン」 https://www.jspn.or.jp/
