疾患・状態
パニック症(パニック障害)
よみ:ぱにっくしょう別名・英語表記:パニック障害、panic disorder
パニック症とは、突然の強い不安とともに動悸や息苦しさなどが急激に起こるパニック発作をくり返し、また起こるのではという予期不安のために生活が制限される不安症の一つです。
パニック症(パニック障害)とは、特に理由がないように思える場面で、突然の強い不安や恐怖とともに、動悸、息苦しさ、震え、発汗などの身体症状が急激に起こる「パニック発作」をくり返し、さらに「また発作が起きるのではないか」という不安(予期不安)のために、行動や生活が大きく制限される不安症の一つです。
身体の病気が除かれていれば、発作そのものが命に関わることはまずないと説明されるのが一般的ですが、本人は「死んでしまうのでは」「おかしくなるのでは」と感じるほど苦しい体験をしています。そのため、発作が起きた場所や状況を避けるようになり、外出や乗り物が難しくなることがあります。心理職は、症状の背景にある恐怖と回避のくり返しを見立て、段階的に生活を取り戻す支援を担います。
パニック症の主な特徴
国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」では、パニック症を、急な強い不安と動悸などの身体の反応を伴うパニック発作が不意に起こることがくり返され、そのために行動が制限され、発作が起きるのではという予期不安が生じて生活に大きな支障が出る状態と説明しています。発作には、起こる場面をあらかじめ予測できる場合と、できない場合があるとされています。
診断基準そのものは DSM-5-TR や ICD-11 の原典で確かめてください。要点としては、予期しない発作がくり返され、発作のあとに、再発への心配や、発作を避けるための行動の変化が一定期間続いていることが目安になります。期間や項目は原典を確認してください。
パニック症に関連する用語は、次のように整理できます。
- パニック発作:短時間のうちに強い恐怖と身体症状がピークに達する体験
- 予期不安:次の発作に対する先取りの不安。発作がなくても続く
- 回避:発作が起きた(起きそうな)場所や活動を避けること
- 広場恐怖症:すぐに逃げ出せない、助けが得られにくい場所(公共交通機関、人混み、一人での外出など)への恐怖。同サイトでも別の不安症として挙げられる
似ている状態との違い
まず確認が必要なのは、身体の病気です。動悸や息苦しさがあるときは、先に内科の診察を受けることが勧められています。同サイトにも、甲状腺機能亢進症、不整脈、貧血などで不安が生じることがあると記載されています。心理職は、受診歴を聞き、受診していない場合は医療機関での確認を勧めます。
そのうえで、次の状態との区別を整理します。
- 物質や薬の影響:カフェイン、アルコール、薬による発作様の症状
- 社交不安症:不安が人前での評価の場面に限られる
- 全般不安症:特定の発作ではなく、広く持続する心配が中心
- 他の疾患に伴うパニック発作:同サイトは、物質使用や治療薬、うつ病などの他の精神疾患に伴って生じることもあると説明しています
- PTSD の再体験などで、特定の記憶や刺激に結びついた恐怖が起こる場合
発作が「予期できる状況に限られる」のか、「予期せず起こる」のかは、見立ての重要な手がかりになります。
心理職が支援するときのポイント
アセスメントでは、次の点を具体的に聞きます。
- 初めての発作の時期、場所、直前の状況(睡眠不足、疲れ、飲酒、カフェイン、ストレス)
- 発作中の身体症状と、そのときの考え(「死ぬかもしれない」「倒れる」など)
- 発作の頻度、最近の様子と、予期不安の強さ
- 避けている場所・活動(電車、エレベーター、一人での外出など)と、お守り的な行動(薬を持ち歩く、同伴者を頼む、出口近くに座る)
- 生活への影響、受診状況と主治医の方針、服薬の有無
面接では、本人が感じている恐怖を否定しないことが大切です。「大丈夫です」とすぐに言うより、「それは怖い体験でしたね」と受けとめたうえで、症状の仕組みを一緒に理解していきます。
心理教育で伝える主な内容は、次のとおりです。
- 発作は強い苦しさを伴うが、通常は時間とともに収まること
- 不安や身体の反応は、危険に備えるための反応が強く出たものと考えられること
- 避けると一時的に楽になるが、長期的には恐怖が保たれ、行動範囲が狭くなりやすいこと
- 不安は最初の5分間ほどが最も強く、その後は横ばいや軽くなる傾向があること(同サイトの記述)
薬の種類や使い方は医師の領域です。心理職は服薬の助言をせず、本人が主治医と相談できているかを確かめ、連携を図ります。
よく使われる心理療法・アプローチ
同サイトでは、不安症の治療として、認知行動療法が薬物療法と同じか、それ以上の効果が知られているとしています。パニック症では、次の要素を組み合わせることが一般的です。
- 発作の仕組みの理解(心理教育)
- 身体感覚への破局的な解釈を見直す認知的な作業
- 動悸や息苦しさなどの身体感覚をあえて体験して慣れる、内部感覚への曝露
- 避けてきた場所や活動に段階的に近づく、現実場面での曝露療法
- 呼吸法やリラクセーションの練習
国内では2025年に日本不安症学会と日本神経精神薬理学会による「パニック症の診療ガイドライン」が学会誌『不安症研究』に掲載されました。実際に使うときは原典の記述と主治医の方針を確かめてください。
曝露では、本人の同意を得て、不安の低い課題から階層表をつくって進めます。安全行動に頼りすぎると、学習が進みにくいことがあるため、徐々に減らす計画も話し合います。進め方の全体は認知行動療法のやり方で整理しています。
生活面では、カフェインのとりすぎが不安を悪化させることがあると同サイトにも記載があります。睡眠や飲酒、カフェインの習慣も一緒に見直します。
関連する用語
- 社交不安症:人前での不安が中心となる疾患
- 全般不安症:持続的な心配が中心となる疾患
- 曝露療法:回避を減らすために用いられる技法
- 心理教育:不安と身体反応の仕組みを伝える関わり
参考文献・出典
- 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所「こころの情報サイト 不安症」 https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=BLA9JV0KhiWPIMzX
- 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 行動医学研究部「不安との付き合い方」 https://www.ncnp.go.jp/nimh/behavior/anxiety/index.html
- 日本不安症学会・日本神経精神薬理学会「パニック症の診療ガイドライン」『不安症研究』17巻1号、22-111頁、2025年 https://doi.org/10.14389/jsad.17.1_22
- American Psychiatric Association(編)、日本精神神経学会(日本語版用語監修)、髙橋三郎・大野裕(監訳)『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、2023年
