症状
自傷行為
よみ:じしょうこうい別名・英語表記:自傷、リストカット、非自殺性自傷、NSSI、Non-Suicidal Self-Injury
自傷行為とは、自殺以外の目的で、故意に自分の身体を傷つける行為で、つらい感情への対処として行われることが多く、自殺のリスクと関連するため評価と安全の確保が欠かせません。
自傷行為とは、自殺以外の目的で、故意に自分の身体を傷つける行為のことです。切る、叩く、焼く、あるいは物を飲み込むなど形はさまざまで、つらい感情や緊張を和らげるための対処として行われることが多いと考えられています。自傷がある人は、そうでない人より、将来の自殺行動のリスクが高いことが知られています。
「かまってほしいだけ」「死ぬ気はないから大丈夫」と軽く扱うことは避け、自傷の機能と、死にたい気持ちの有無の両方を丁寧に見立てることが、心理職の仕事の中心です。
自傷行為とは(どんな体験か)
自傷をする人にとって、自傷は多くの場合「死ぬため」ではなく、「生きのびるため」の手段として感じられています。主な機能として、次のようなものが挙げられます。
- 感情の調整: 怒り、不安、空虚感、緊張など、耐えがたい感情を一時的に和らげる
- 解離や麻痺の解除: 現実感のなさ、感覚の麻痺から戻るために行う
- 自己への罰: 自分を責める気持ちから行う
- 気持ちを他者に伝える: 言葉にできないつらさの表現として現れることもある
ただし、効果は一時的で、繰り返すうちに頻度や程度が増すことがあります。自傷は秘密にされやすく、傷あとへの恥ずかしさや、周囲に責められることへの恐れから、相談につながりにくい行動でもあります。
自傷と自殺企図は、目的が異なるため区別して考えますが、同じ人に両方が見られることも多く、時間の経過とともに変わることもあります。DSM-5-TRでは、非自殺性自傷は精神疾患としてではなく、臨床的関与の対象となることのある状態として記録できるようになりました。独立した疾患として扱うかどうかは研究段階です。詳しくは原典を確認してください。
見られる疾患・状態
自傷は特定の診断名ではなく、次のようなさまざまな状態で見られます。
- 境界性パーソナリティ症: 繰り返しの自傷は特徴の一つです。境界性パーソナリティ症を参照してください
- うつ病、不安症、PTSD、解離症: 感情の苦痛や麻痺の対処として現れます。うつ病、PTSD(心的外傷後ストレス症)、解離を参照してください
- 摂食症: 自傷を伴うことがあります。摂食症(摂食障害)を参照してください
- 自閉スペクトラム症、ADHD: 感覚の特性や衝動性、二次的な苦痛との関連が指摘されています。自閉スペクトラム症(ASD)とADHDを参照してください
- 特定の診断のない青年期の困りごと: 学校や家庭での逆境、いじめ、対人関係の問題を背景に、若い世代で見られます
アセスメントで確かめること
自傷そのもの
- いつから、どのくらいの頻度で、どのような方法で行っているか(方法の詳細を聞きすぎず、傷の手当てが必要かの確認を優先します)
- 直前の状況(きっかけ、感情、考え)と、直後の感情の変化。自傷がどんな役割を果たしているか
- 傷の程度と、医療的な手当ての必要性。感染や出血、繰り返しの深い傷がないか
- 自傷の頻度や程度が、最近変わっていないか
自殺のリスク
- 自傷のときに死にたい気持ちがあるか。希死念慮の有無と強さ、計画の有無。評価の流れは希死念慮にまとめています
- 過去の自殺企図、致死性の高い手段へのアクセス
- 自傷が段階的に強くなっていないか、自傷では気持ちが収まらなくなっていないか
- 自傷と自殺企図を区別するのは、本人にも難しいことがあります。意図があいまいなときは、リスクが高い側に傾けて対応を考えます
背景の理解
- 併存する精神疾患、物質使用、睡眠、摂食の問題
- 逆境体験や虐待の既往、いじめ、対人関係の問題
- 支えになる人や場所、家族の理解
- 年齢が低い場合は、学校、家庭、児童相談所などとの連携の必要性
面接での対応のポイント
- 自傷を知ったときに驚きや嫌悪を出さず、「話してくれてありがとう」と、話せたことを受け止めます
- 責めたり、「やめなさい」と禁止したりするだけでは、行動は隠れてしまいます。やめさせることを最初の目的にせず、自傷がどんな役割を果たしているかを一緒に理解します
- 自傷の代わりになる安全な対処を、本人の実感に合うものから一緒に探します。氷を握る、運動する、感情を書き出す、信頼できる人に連絡するなど、複数用意します。認知行動療法(CBT)や弁証法的行動療法(DBT)のスキルが役立つことがあります
- 傷の手当てと、医療機関の受診が必要かを確認します。傷が深い、感染の疑いがある、自傷が急に増えているなどの場合は、速やかに医療につなぎます
- 傷の確認は手当ての必要性を見る範囲にとどめ、過度に注目したり詮索したりせず、状況を言葉で共有できる関係をつくります
- 自傷が続いているからといって、治療の失敗と考えません。小さな変化(頻度、衝動に耐えられた時間、相談できた回数)を一緒に確かめます
安全の確保と連携
- 死にたい気持ちが強い、計画がある、手段が手元にある、行為が急に重くなっているときは、緊急性が高いと考えます。対応の手順は希死念慮の「緊急性が高いとき」を参照してください
- 未成年の場合は、保護者や学校との連携の範囲、本人への説明、同意の取り方を、所属先の規程に沿って慎重に決めます。虐待が疑われる場合の通告義務については、関係法令を確認し、上司・スーパーバイザーに相談します。公認心理師の守秘義務とはも参考になります
- 主治医がいる場合は、状況を共有できるよう本人の同意を得ます
- 家族には、責めずに見守り、傷の手当てを手伝い、危機のときの連絡先を共有するよう伝えます。家族自身の負担にも目を向けます
紹介できる相談窓口
厚生労働省の「まもろうよ こころ」には、電話やSNSで相談できる窓口が載っています。以下は2026年11月3日に同サイトで確認した内容です。最新の受付時間はまもろうよ こころの電話相談窓口のページで確認してから案内してください。
- こころの健康相談統一ダイヤル: 0570-064-556(ナビダイヤル、通話料がかかります)。相談対応の曜日・時間は都道府県によって異なります。050で始まるIP電話からは接続できません
- よりそいホットライン: 0120-279-338(フリーダイヤル・無料)。24時間対応
- いのちの電話: 0120-783-556(フリーダイヤル・無料)。毎日16時から21時まで、毎月10日は午前8時から翌日午前8時まで
- 24時間子供SOSダイヤル(文部科学省): 0120-0-78310(フリーダイヤル・無料)。24時間対応。子どもや保護者の相談先として案内できます
命の危険や重い傷があるときは、119番に通報します。
よく使われる心理療法・アプローチ
- 弁証法的行動療法(DBT): 感情調整のスキルを学び、自傷の代わりの対処を身につけます。弁証法的行動療法(DBT)を参照してください
- 認知行動療法: きっかけと考え、行動の連鎖を整理し、対処を練習します
- 心理教育: 自傷の機能と、本人と家族に必要な関わり方を共有します。心理教育を参照してください
- 併存する精神疾患への治療: 医師と連携して進めます
効果は人や状況によって異なります。薬物療法を含む医療的な判断は、主治医と確かめます。
関連する用語
- 希死念慮
- 境界性パーソナリティ症
- 解離
参考文献・出典
- 米国精神医学会(編)、日本精神神経学会(日本語版用語監修)、髙橋三郎・大野裕(監訳)『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、2023年
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」 https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
- 日本精神神経学会 精神保健に関する委員会(編著)『日常臨床における自殺予防の手引き』平成25年3月版 https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/journal/suicidepreventionguide_booklet.pdf
- 国立精神・神経医療研究センター https://www.ncnp.go.jp/
