症状
解離
よみ:かいり別名・英語表記:解離症状、dissociation
解離とは、意識・記憶・自己の感覚・周囲の知覚などがまとまりを失い、つながりが一時的に途切れる体験のことです。ストレスやトラウマと関連して見られます。
解離とは、本来はひとつにまとまっているはずの意識・記憶・自分という感覚・周囲の知覚などが、一時的にまとまりを失い、つながりが途切れる体験のことです。ぼんやりして外の出来事が頭に入らない、という日常的な範囲のものから、長い時間の記憶が抜け落ちる、自分が自分でないように感じるといった生活への支障が大きいものまで、連続的な幅があります。
解離は「症状」であり、それ自体が診断名ではありません。トラウマ体験、強い緊張、慢性的なストレスとの関連が知られていますが、解離がある=虐待や被害があった、と結びつけて理解することはできません。心理職は、体験の中身と、その人の生活や安全への影響を丁寧に確かめる立場になります。
解離とは(どんな体験か)
解離の体験は、大きく次のようなまとまりで語られます。実際には重なって現れることが多くあります。
- 離人感: 自分の体や心から離れて外から眺めているように感じる、感情や感覚が自分のものではないように感じる
- 現実感消失: 周囲がベールの向こうにあるようで、現実味がない、夢の中のように感じる
- 解離性健忘: ふつうの物忘れでは説明しにくい、出来事や一定の期間の記憶の欠落
- 同一性の混乱や変化: 自分という感覚が揺らぐ、自分の中に別の存在や声があるように感じる
- 身体や運動に現れる症状: 声が出ない、動けない、意識が遠のくなど。身体疾患の除外が前提になる
軽い解離は、強い緊張や疲労のなかで多くの人が経験します。そのため「解離がある」こと自体を異常と決めつけず、頻度、持続、本人の困りごと、生活への影響で見ます。
見られる疾患・状態
DSM-5-TR では解離症群(解離性障害群)として、解離性同一症(解離性同一性障害)、解離性健忘、離人感・現実感消失症(離人感・現実感消失障害)などが挙げられています。ICD-11 にも解離症群の分類がありますが、名称や区分が DSM-5-TR と同じではありません。診断基準の詳しい文言は、原典で確認してください。
解離は解離症群だけでなく、次のような場面でも見られます。
- PTSD(心的外傷後ストレス症)で、トラウマ記憶に触れたときに現実感が薄れる
- 境界性パーソナリティ症(境界性パーソナリティ障害)で、強いストレス下に一過性に起こる
- 不安症、うつ病、摂食症などの併存
- 睡眠不足、薬物やアルコールの影響、てんかんなどの身体要因
解離に似た見え方をするものに、幻覚や妄想などの精神病症状、てんかん発作、薬物の影響、詐病や作話があります。見分けは心理職だけで決められないため、診断は医師に委ねる前提で情報を整理します。
アセスメントで確かめること
解離は本人が気づいていないことも多く、困りごととしては語られにくい体験です。「自分でも気づかないうちに」「気づくと時間が経っていた」のような言い方で聞くと、答えやすくなる場合があります。面接で確かめることの例です。
- どんな場面で、どのくらいの頻度で起こるか(きっかけ、前後の状況)
- 記憶が抜ける期間があるか、物がなぜか増えている・減っているなど周囲から指摘されることがあるか
- 現実感や自分の感覚がどう変わるか、どのくらい続くか
- 生活への影響(仕事、学業、対人関係、運転や火の扱いなどの安全面)
- トラウマ体験や慢性的な逆境体験の有無(聞く順序と深さは後述の配慮を優先する)
- 自傷や希死念慮、物質使用、睡眠、身体疾患の有無
- 通院状況と主治医の見立て
質問紙や構造化された面接が使われることもありますが、スクリーニングの結果だけで診断と受け取らないことが前提です。使うときは、検査の目的と限界を本人に説明します。
面接での対応のポイント
解離への対応で最初に重視されるのは、安全と安定です。トラウマ記憶を詳しく扱う前に、日常の安定を作ります。
- 面接中に解離が起きたとき(反応が乏しくなる、目の焦点が合わない、話がつながらない)は、無理に話を進めず、名前を呼ぶ、今いる場所や時間を確かめる、足の裏の感覚や周りの物の色に注意を向けてもらうなど、「今ここ」に戻る手がかりを使う
- 解離が起きること自体を責めず、「ストレスから心を守るために起きる反応」と伝える
- 本人に合うグラウンディング(五感を使って今に注意を向ける方法)を、面接外でも使えるよう一緒に探す
- トラウマの詳細を急いで聞き出さない。話すペースは本人が決められるようにする
- 解離は「ごまかし」「演技」と受け取られると傷つきを重ねるため、周囲(家族、学校、職場)への説明の仕方を確認する
- 面接の枠や次回の約束が曖昧にならないよう、情報は短く書面でも残すことを検討する
解離を主症状とする場合も、トラウマが背景にある場合も、心理療法は段階を踏んで進めるという考え方が一般的です。まず安定化、次に必要に応じたトラウマ記憶の処理、最後に生活の再構築、という流れです。どの段階で何を行うかは、医師と連携し、スーパービジョンも活用して決めます。詳しくは トラウマインフォームドケア の考え方も参考になります。
関連する用語
- フラッシュバック: 過去の出来事が今起きているかのように再体験される症状。解離と重なることがある
- メンタライゼーション: 自分や他者の心の状態を理解する働き。解離を理解する際にも参考になる
見立ての整理には ケースフォーミュレーション を、初回の聞き取りの進め方には インテーク面接 の記事も役立ちます。
参考文献・出典
- 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所「こころの情報サイト PTSD」(トラウマ後に現実感がなくなる、記憶の一部が飛ぶことにもふれている) https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=iGkwv4PNzgWhQ9xI
- American Psychiatric Association(日本精神神経学会 日本語版用語監修、髙橋三郎・大野裕 監訳)『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、2023年
- 世界保健機関 ICD-11(国際疾病分類 第11回改訂)
- Herman, J. L.『心的外傷と回復(増補新版)』中井久夫・阿部大樹訳、みすず書房、2023年
