症状
フラッシュバック
よみ:ふらっしゅばっく別名・英語表記:侵入的想起、再体験、flashback
フラッシュバックとは、過去のつらい出来事の記憶や感覚が、本人の意志と関係なく、今まさに起きているかのように鮮明によみがえる症状です。
フラッシュバックとは、過去のつらい出来事の記憶や、そのときの感情・身体感覚が、本人の意志とは関係なく突然よみがえり、今まさに起きているかのように感じられる症状です。トラウマ体験の後に見られる代表的な再体験(侵入)症状のひとつで、PTSD(心的外傷後ストレス症)で重視されます。
単に「嫌なことを思い出した」という想起とは違い、映像、音、におい、体の感覚などが、その時の恐怖や無力感とともに再び襲ってくる体験です。そのため、本人は「また起きている」と感じ、現在の安全が分からなくなることがあります。
フラッシュバックとは(どんな体験か)
国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」では、PTSD の再体験として、記憶が本人の意志とは無関係に思い出され、当時の感情や身体感覚が戻ることがあると説明されています。同じ悪夢を繰り返し見ることも、よくある症状とされています。
体験の現れ方には幅があります。
- 場面が映像のようによみがえる
- 音、におい、触覚など特定の感覚だけが戻る
- 動悸、息苦しさ、震えなど、体の反応が先に起きる
- 悪夢として眠りの中に現れる
- 強い解離を伴い、一時的に今いる場所や時間が分からなくなる
きっかけ(トリガー)は、出来事を思い出させる音、におい、場所、日付、人の言動、体の状態などさまざまです。本人が自覚していない刺激で起こることもあり、「急にそうなった」と感じられる場合があります。
見られる疾患・状態
フラッシュバックは PTSD や急性ストレス症(急性ストレス障害)で見られますが、次のような場合にも起こりえます。
- 複雑性 PTSD(ICD-11 で新たに採用された診断。PTSD の症状に、感情の調整や対人関係の困難、否定的な自己像が加わる)
- うつ病、不安症、解離症状を伴う状態
- 薬物やアルコールの影響、睡眠の問題
- 身体疾患やてんかんなど、別の原因による幻覚・再体験に似た症状
「トラウマの記憶が戻る」体験と、精神病症状としての幻覚は、見え方が似ることがあります。現実検討が保たれているか、体験にきっかけと内容のつながりがあるかを丁寧に確かめ、見立てには医師の診断を含めて考えます。
アセスメントで確かめること
フラッシュバックの有無を聞くときは、本人を追いつめない聞き方が必要です。出来事の詳細を話してもらう必要はなく、再体験の「形」と生活への影響を確かめれば足ります。
- 突然よみがえる体験があるか、頻度と持続、きっかけ
- そのとき、今の場所や時間が分からなくなる感覚があるか(解離の有無)
- 悪夢や睡眠の状態
- 避けている場所・人・話題があるか(回避)
- 神経が張りつめる、驚きやすいなどの過覚醒の状態
- 自傷、希死念慮、飲酒や薬物の使用など、対処としての行動
- 現在の安全(加害者や危険な環境が続いていないか)
- 通院・服薬状況と主治医の方針
トラウマ関連の質問紙もありますが、結果だけで診断にはなりません。使う場合は、何を測るものか、限界は何かを本人に説明します。
面接での対応のポイント
こころの情報サイトでは、PTSD の治療で最も効果があるのはトラウマを扱う認知行動療法で、代表的なものに持続エクスポージャー療法、認知処理療法、眼球運動脱感作療法(EMDR)があると説明されています。ただし、どの方法を、どの時期に行うかは、安定化の状態や安全の確保を見て決めます。心理職の役割として、次のような点が挙げられます。
- 面接でフラッシュバックが起きたときは、「今は安全な部屋にいる」ことを、短い言葉で繰り返し伝える。目を開けて部屋の中の物を数える、足の裏の感覚に注意を向けるなど、今に戻る手がかりを使う
- 体験の詳細を聞き出そうとしない。話すペースは本人が決められるようにする
- 呼吸を整える、体を温める、安全な場所をイメージするなど、フラッシュバック時とその前後に使える対処を一緒に決めておく
- 心理教育として、「フラッシュバックは異常ではなく、強い体験に対する脳と体の反応として知られている」ことを伝える。心理教育の資料は、本人の状態に合わせて短くする
- トリガーを避けすぎると行動が狭まるため、回避の程度も見守り、必要に応じて段階的に取り組む。扱い方は主治医と方針を合わせる
- 面接の終わりに、落ち着いた状態で帰れているかを確認する。体験を思い出させる質問をした直後は、特に気をつける
支援する側が、事前に本人の安全や緊急時の連絡先を確認しておくことが大切です。希死念慮が出た場合の対応は所属先の手順に従い、必要に応じてスーパーバイザーに相談します。
関連する用語
- トラウマインフォームドケア: トラウマの影響を前提に関わる枠組み
- 曝露療法(エクスポージャー): 恐怖の対象に段階的に向き合う技法
トラウマ後の関わり方全般は カウンセリング技法の種類と基本 の記事も参考になります。
参考文献・出典
- 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所「こころの情報サイト PTSD」 https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=iGkwv4PNzgWhQ9xI
- American Psychiatric Association(日本精神神経学会 日本語版用語監修、髙橋三郎・大野裕 監訳)『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、2023年
- 世界保健機関 ICD-11(国際疾病分類 第11回改訂)
- Herman, J. L.『心的外傷と回復(増補新版)』中井久夫・阿部大樹訳、みすず書房、2023年
