疾患・状態
適応障害(適応反応症)
よみ:てきおうしょうがい別名・英語表記:適応反応症、Adjustment Disorder
適応障害(適応反応症)とは、はっきりしたストレス要因に反応して、抑うつや不安、行動面の変化が生じ、生活や仕事に支障が出る状態です。ストレス要因の整理と環境調整が支援の中心になります。
適応障害(適応反応症)とは、職場や学校、家庭、病気、人間関係などの特定できるストレス要因に反応して、気分の落ち込みや不安、行動面の変化が生じ、社会生活や仕事に支障が出る状態です。ストレス要因がはっきりしていて、その影響が強く現れる点が特徴です。
病名は、日本精神神経学会の DSM-5 の翻訳ガイドライン(2014年)では「適応障害」のままでしたが、DSM-5-TR の日本語版(2023年)以降の文献では「適応反応症」という訳語が使われています。診断書や記録、職場とのやりとりでは「適応障害」がまだ広く使われているため、両方の表記を押さえておくと便利です。
適応障害の主な特徴
適応障害には、はっきりした症状の型があるというよりも、ストレス要因との時間的なつながりが重視されます。要点を自分の言葉でまとめると、ストレス要因が生じてから比較的短い期間のうちに症状が現れ、その苦痛や生活上の支障が、要因から考えられる程度を超えていること、そして他の精神疾患ではうまく説明できないことが前提になります。また、ストレス要因やその影響が終われば、症状はそれほど長くは続かないと考えられています。発症までの期間や持続期間の目安、除外の条件は DSM-5-TR や ICD-11 で数字が異なる部分もあるため、原典で確認してください。
見られる症状は人によって異なります。
- 気分や不安: 憂うつ、涙もろさ、緊張、焦り
- 身体: 不眠、頭痛、動悸、食欲の変化
- 行動: 遅刻や欠勤、飲酒量の増加、攻撃的な言動、引きこもり
似ている状態との違い
適応障害は、他の状態との境界が分かりにくいため、見立てを慎重に進めることが大切です。心理職が診断をするわけではありませんが、整理するときの視点を持っておきます。
- うつ病との違い: ストレス要因から離れると気分が軽くなる傾向があるかが手がかりになります。ただし、経過の中でうつ病の基準を満たすように変わることもあるため、症状の広がりと期間を継続して見ます
- 不安症との違い: 全般不安症は特定のストレス要因がなくても心配が広く続きます。適応障害は要因との関係が見えやすい点が違います
- PTSDとの違い: 生命の危険に及ぶような出来事に由来する再体験や回避が中心なら、PTSDを検討します
- 性格や能力の問題としての見方との違い: 本人も周囲も「甘え」「弱さ」と受け取りやすい状態です。ストレス要因と症状の関係を説明し、本人の責任に帰さない見方を共有することが大切です
心理職が支援するときのポイント
支援の中心は、ストレス要因の特定と、その負荷を減らす環境調整、対処の力を高めることです。厚生労働省のこころの耳でも、回復には環境調整や、環境に慣れること、本人の順応する力が増えることが重要だと説明されています。アセスメントで聞くことは次のようなものです。
- いつから、どんな出来事や状況の変化があったか(異動、人間関係、業務量、転居、介護、病気など)
- 症状が強くなる場面と、軽くなる場面(休日や在宅の日、特定の人がいないとき)
- 睡眠、食事、飲酒、出勤・登校の状況と、生活への影響
- 抑うつの深さと希死念慮の有無。強い場合はすぐ医療機関と連携する
- 本人の対処の方法、支えになる人や場、過去の同じような経験
- 診断書や休職の有無と、主治医の方針
面接では、ストレス要因について本人の感じ方を丁寧に聞きながら、整理を手伝います。ケースによっては、職場や学校への働きかけ(業務の調整、配置の見直し、休職や復職の段取り)が重要になります。職場の場合は、産業医や保健師などの産業保健スタッフ、人事との役割分担を確かめておくと動きやすくなります。ただし、職場へ情報を伝えるときは原則として本人の同意が必要です。守秘義務や情報共有の範囲は、所属先の規程と関係法令を確認し、必要に応じて上司やスーパーバイザーに相談してください。守秘義務の基本は公認心理師の守秘義務の記事でも整理しています。
休職や復職の判断、診断書の作成は医師の役割です。心理職は医師の方針を確かめながら、本人が決められるように支えます。
よく使われる心理療法・アプローチ
適応障害に特化した決まった方法があるというより、状態と目標に合わせて次のようなアプローチを組み合わせることが多いと考えられます。
- 認知行動療法にもとづく、考え方や行動の見直し、問題解決の練習
- ストレスの仕組みと対処を伝える心理教育
- リラクセーションやマインドフルネスなど、身体の緊張を整える練習
- 休職中は、生活リズムの回復から始め、復職に向けた段階的な準備を支える
回復の見通しや、治療の選び方の推奨は、医師の領域です。心理職は「必ずよくなる」と断定せず、経過を一緒に見ていく姿勢を保ちます。
関連する用語
参考文献・出典
- 厚生労働省「こころの耳 用語解説:適応障害」 https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1653/
- 日本精神神経学会 精神科病名検討連絡会「DSM-5 病名・用語翻訳ガイドライン(初版)」精神神経学雑誌 116巻6号、2014年 https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/dsm-5_guideline.pdf
- American Psychiatric Association (2022) Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision (DSM-5-TR). American Psychiatric Association Publishing.
- 日本精神神経学会(日本語版用語監修)、髙橋三郎・大野裕(監訳)『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院、2023年
