オンラインカウンセリングのツール選び|守秘と運用の条件

オンラインカウンセリングのツールの選び方を心理職向けに解説。セキュリティ5観点、無料と有料の違い、予約システム・決済・記録の連携、個人情報保護法や厚労省の指針をどこまで参考にできるかを整理します。
オンラインカウンセリングのツールは、機能や知名度で比べるより、「面接の内容がどこを通り、どこに残り、誰が入室できるか」という条件で確かめて選ぶのが確実です。ビデオ通話だけでなく、予約・決済・記録まで含めて「どの情報を、どこに、誰の管理で置くか」を先に決めると、選ぶ軸が定まります。この記事では、公認心理師・臨床心理士などの心理職がツールを選び、運用するときの確認点を、製品名を挙げずに種類と条件で整理します。面接の進め方そのもの(同意、危機対応、非言語情報の扱いなど)は、別の記事「オンラインカウンセリングの進め方」で扱っています。
この記事でわかること
- オンラインカウンセリングのツールの種類と、使い分けの考え方
- ビデオ通話ツールの選び方(セキュリティの5つの観点、無料と有料の違い)
- 予約システム・決済・記録をつなぐときの注意点
- 個人情報保護法と、厚生労働省の指針・ガイドラインをどこまで参考にできるか
オンラインカウンセリングで使うツールの種類
ツールは大きく「面接をするもの」と「面接を支えるもの」に分かれます。全体像を先につかんでおくと、必要なものだけを選べます。
面接をするツール(ビデオ通話・音声・チャット)
面接の本体になるのは、ビデオ通話、音声通話、チャットです。どれを使うかは、相談者の状況と支援の目的で決めます。
- ビデオ会議ツール: 会議やセミナーで広く使われる汎用のもの。導入しやすい反面、守秘のための設定は使う側の責任になる
- 医療・相談向けの専用システム: オンライン診療や相談業務を念頭に作られたもの。入室管理や記録の扱いが業務に合わせて設計されていることが多いが、費用がかかり、契約条件の確認も要る
- 電話・音声通話: 画面を映せない相談者や、回線が不安定なときの代替になる。録音の設定や、発信番号の通知の扱いを決めておく
- チャット(文字のやりとり): 時間差で返信できる一方、文面がそのまま残り、緊急時の把握が難しい。使う範囲と返信の目安を事前に伝える
面接を支えるツール(予約・決済・記録・連絡)
面接の周辺には、次の機能が必要です。ひとつのシステムにそろっているとは限らず、別々のツールを組み合わせることも多いでしょう。
- 予約の受付と日程調整
- 料金の請求と決済
- 面接記録の保管
- 面接前後の連絡(日程の確認、接続先の送付、キャンセル)
- 書類のやりとり(同意書、アンケートなど)
周辺ツールが増えるほど、相談者の個人情報が置かれる場所も増えます。「どのツールに、どの情報が入るか」を一覧にしておくと、後の点検が楽になります。
ビデオ通話ツールの選び方
オンラインカウンセリングのビデオ通話ツールは、機能の多さではなく、守秘と運用の条件で比べます。確認したい項目を順に挙げます。
比較の前に決めておくこと
ツールを探す前に、自分の働き方から条件を決めておきます。
- 所属先(医療機関、学校、企業の相談室、行政など)の規程で、使えるツールが決まっていないか
- 開業やフリーランスで自分で選ぶ場合、扱う相談の内容と件数はどのくらいか
- 相談者が使う端末はスマートフォン中心かパソコンか、アプリの導入は負担にならないか
- 1回の面接時間(50分前後が多い)に収まる使い方ができるか
所属先でツールが決まっている場合は、独自に別のものを使わず、情報システムの担当者や上司に相談してください。
セキュリティで確認したい5つの観点
公認心理師法第41条は、正当な理由なく業務に関して知り得た人の秘密を漏らすことを禁じています。ツールのセキュリティの確認は、この秘密保持義務を守るための具体的な手段のひとつです。
- 暗号化: 通信が暗号化されているか。公式の説明資料やセキュリティのページで確かめ、判断しにくければ詳しい人に確認する
- 入室の管理: 待機室(主催者が許可してから入室させる機能)、パスコード、面接ごとに別の接続先を作れるか。接続先を使い回すと、別の相談者が入ってしまうおそれがある
- 録画・録音: 支援者側で録画・録音の可否を管理できるか。相談者側の録画・録音を控えてもらう取り決めと、疑いがあるときの対応も決めておく
- データの保存: 映像・音声・チャットの履歴がサービス側に残るか、残るならどこに、どれだけの期間か。自動の文字起こしや要約の機能がある場合は、初期設定で有効になっていないか、作られた文字データがどこに保存され、サービスの改善などに使われないかも確かめる。海外のサーバーに置かれる場合は、その国の制度も論点になる
- アカウントの管理: 多要素認証が使えるか。アカウントを共有しない、退職者のアカウントをすぐに止める、といった運用ができるか
ツールは更新され、設定や規約も変わります。規約や機能が変わったときに見直す習慣をつけておくと安心です。
端末と通信環境の管理
ツールが安全でも、端末の管理が甘いと漏えいにつながります。
- 画面ロックと自動ロックを有効にし、OS やアプリを最新に保つ
- 私用と業務用で端末やアカウントを分け、家族と共有しない
- 公共の無料 Wi-Fi を使わず、自宅や事務所の管理された回線を使う。有線接続にすると通信が安定しやすい
- 画面共有のときは、通知やメールが映り込まないようにする
- 第三者に声が聞こえない個室で行い、ヘッドセットの利用も検討する
接続先の送り方と入室の流れ
接続先(ミーティングのリンク)の扱いは、事故が起きやすい場面です。
- 面接ごとに新しい接続先を作り、予約した本人にだけ送る。送信前に宛先を確かめる
- 開始時刻の少し前に入室し、待機室を管理する
- 入室した人が本人かを、表示名や声で確かめる。なりすましや同席者の紛れ込みに気づけるようにしておく
- 通信が切れたときの連絡手段(電話番号など)を、事前に決めておく
オンラインカウンセリングツールの無料と有料
無料のツールでも面接はできます。無料と有料の違いは金額だけでなく、守秘と運用の面に表れます。「無料だから危ない」「有料だから安全」と決めつけず、条件で比べます。
無料のツールのデメリットと確認したい制限
無料版には、製品によって次のような制限があります。
- 1回の通話時間や参加人数に上限がある(50分前後の面接に収まるか)
- 入室管理や録画の管理など、守秘に関わる機能が限られている
- サポートや、事業者の責任の範囲が小さい、または明示されていない
- 利用規約上、利用状況などがサービスの改善に使われる場合がある
具体的な条件は製品ごとに異なり、変更もあります。使う前に各サービスの公式の最新情報を確認してください。
有料のツールで得られるもの
有料版で得られるのは、主に機能の拡張と、事業者の責任の明確さです。
- 時間や人数の制限が緩い、またはない
- 入室管理、アカウント管理、ログの確認などの機能が充実している
- 契約の中で、事業者のセキュリティ対策と責任の範囲が説明されている
- 障害時のサポートが受けられる
ただし、有料でも守秘の責任が使う側からなくなるわけではありません。費用は月額だけでなく、面接の件数、複数のツールを組み合わせたときの合計と管理の手間、無料版で自分が補う作業(毎回の接続先の作成など)も含めて考えます。
予約システム・決済・記録とのつなぎ方
予約、決済、記録は後回しにされがちですが、情報の置き場所が増えるのはここです。設計の段階で整理しておきます。
予約システムで気をつけること
予約の受付では、名前、連絡先、相談の概要を預かることがあります。
- 予約の画面で、詳しい症状や家族の情報など、必要以上のことを聞かない。詳しい内容は初回の面接で聞く
- 入力された情報がどこに保存され、誰が見られるかを確認する。無料の予約システムでも、この点は有料と同じように確かめる
- 確認メールやリマインドに、相談内容がわかる文言を入れない(家族や同僚に見られても内容がわからない書き方にする)
- キャンセルの規定を、予約の時点で伝える
決済のツールで気をつけること
カード番号などは自分で預からず、決済事業者の仕組みに任せるのが基本です。
- 領収書や明細の書き方(「カウンセリング料」と書くかどうかなど)は、相談者の希望を聞いて決める
- 返金やキャンセルの扱いを、利用前に明示する
- 決済の記録は税務上の保存が必要になる場合がある。扱いは税務署や税理士に確認する
ウェブ上で申し込みを受けて有料の面接を提供する形は、特定商取引法の「通信販売」にあたる場合があります。その場合、広告には対価、支払の時期と方法、提供の時期、契約の解除に関する事項などの表示が求められます(同法第11条)。当てはまるかどうかや表示の内容は、消費者庁の公表資料で確かめ、迷うときは専門家に相談してください。
記録の保管で気をつけること
面接記録は、守秘の観点で最も重い情報です。書き方は「カウンセリング記録の書き方」、電子化の考え方は「カウンセリングの電子カルテ」の記事で扱っているので、ここではツールとの関係に絞ります。
- 記録の保存先を、ビデオ通話のツールとは分けて考える(通話ツールにメモや文字起こしの機能があっても、記録の置き場にするかは別に判断する)
- 予約システムや決済ツールと連携して情報を自動で移す場合は、移した先にも同じ水準の保護が必要になる
- 保存の期間と廃棄の方法、自分が急に働けなくなったときの扱いを決めておく
個人情報保護法と、オンライン診療の指針・医療情報のガイドライン
ツールの選定には、法令や公的な指針が参考になります。ただ、どれがそのまま当てはまるかは働き方によって違うため、ここでは「どこまで参考になるか」を断定せずに整理します。
個人情報保護法で押さえたいこと
個人情報データベース等を事業に使う人は、個人事業主でも個人情報取扱事業者にあたり、個人データの漏えいなどを防ぐために必要かつ適切な措置を講じる義務があります(個人情報保護法第23条、安全管理措置)。国や自治体の機関で働く場合は、行政機関等としての別の規律が適用されるので、所属先の規程を確認してください。
個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、安全管理措置として、基本方針の策定、取扱いの規律の整備、組織的・人的・物理的・技術的な措置、外的環境の把握を挙げています。外的環境の把握とは、外国で個人データを扱う場合にその国の制度などを把握することで、ツールの保存先を確認する理由のひとつです。通則編は2026年6月に一部改正されており、最新の内容は個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)のページで確認できます。
また、病歴などを含む情報は要配慮個人情報(法第2条第3項)にあたり、相談の内容によっては相談者の情報が該当しえます。取得や管理は慎重に行い、個別の判断は所属先の担当者や専門家に確認してください。
オンライン診療の適切な実施に関する指針は参考になるか
厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(平成30年3月策定、令和8年4月改訂)は、医師が患者を診察・診断するオンライン診療などを対象にしたものです。指針自身も、診断などの医学的判断を伴わない「遠隔健康医療相談」は対象としないと整理しています。心理職のカウンセリングを対象にした指針ではなく、心理職に守る義務が生じるものではありません。
それでも、ビデオ通話で専門職が相談を受けるときの情報セキュリティの考え方が具体的に書かれているため、ツールを点検する視点として借りることはできます。医療機関に向けて書かれている事項のうち、たとえば次のような点です。
- 事業者の説明を受けて対策を確かめ、どこまでが事業者の責任か(責任分界点)を確認する
- 汎用のサービスを使う場合は、医療機関側から患者側につなぎ、通信の管理者権限を患者に渡さない
- 診療に関わらない人に内容が伝わらない環境にし、患者側に第三者がいないか確かめる
- 患者側、医師側ともに、同意なしに録音・録画・撮影をしない
- 多要素認証を用いるのが望ましい
- 電子カルテなどを扱う端末でそのままオンライン診療のシステムを起動すると、他の患者の情報にも影響が及ぶおそれがある
医療機関で働く心理職は、所属先がこの指針や関連するガイドラインに沿って院内の規程を定めていることがあるため、まず規程を確認してください。指針の本文は厚生労働省のオンライン診療の適切な実施に関する指針(PDF)で読めます。
医療情報システムの安全管理に関するガイドラインとの関係
厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」は、医療機関等が医療情報システムを扱うときの安全管理を定めたものです。2026年11月時点の最新は第7.0版(2026年6月見直し)で、Q&A(2026年9月)やサイバーセキュリティ対策チェックリストも厚生労働省のページで公開されています。
対象は医療機関等で、開業のカウンセリングルームや学校・企業の相談室にそのまま当てはまるとは限りません。医療機関に所属している場合は所属先の規程を確認し、それ以外の場合は安全管理の考え方の参考にとどめ、どこまで求められるかに迷うときは、所属先の担当者、上司、スーパーバイザー、専門家に相談してください。
オンラインカウンセリングのツールを運用するときの工夫
ツールは選んで終わりではありません。運用のルールを決めておくと、事故を減らせます。
運用のルールを書面にしておく
自分用の運用メモを作っておくと、点検や引き継ぎに役立ちます。
- 使うツールの一覧と、それぞれに入る情報
- アカウントの管理者と、権限の範囲
- 録画・録音、文字起こし機能の扱い
- 接続先の作成と送付の手順、通信が切れたときの手順
- 漏えい(またはそのおそれ)が起きたときの連絡の流れ
- ツールを見直す時期
個人データの漏えいなどのうち、要配慮個人情報が含まれるものは、件数にかかわらず個人情報保護委員会への報告の対象になり、本人へ知らせることも求められます(法第26条)。なお、令和8年7月に公布された改正個人情報保護法では、本人への通知などの扱いが見直される予定です(施行は公布から2年以内)。施行後は個人情報保護委員会の案内で最新の内容を確認してください。委員会の案内では、発覚から3〜5日以内に速報、30日以内(不正の目的によるおそれがある場合は60日以内)に確報とされています。手順は個人情報保護委員会の漏えい等報告のページと所属先の規程で確かめておきましょう。
相談者にツールの取り決めを伝える
ツールに関する取り決めは、相談者に事前に説明して同意を得ます。同意書全体の項目は「進め方」の記事で整理しているので、ツールに関わる部分だけ挙げます。
- 使うツールと接続の方法(相談者向けの書面には製品名を書いてよい)
- 支援者が行っている対策と、相談者にお願いすること(第三者に聞かれない場所で受ける、アプリを更新しておく、接続先を他の人に渡さない)
- 録画・録音や文字起こし機能を、双方とも同意なしに使わないこと
定期的に見直す
ツールの規約や設定、公的な指針は変わります。年に一度や、新しい機能が加わったときに、運用メモを見直します。職能団体や学会の研修・資料で、遠隔での支援に関する新しい情報が出されることもあります(心理職の研修をオンラインで探す方法)。
よくある質問
Q. 心理職がオンラインカウンセリングのツールを選ぶ基準は何ですか?
まず所属先の規程を確認します。決まりがない場合は、暗号化、入室の管理、録画の管理、データの保存先、アカウントの管理の5点を条件にして選びます。機能の多さや知名度より、守秘を守る運用ができるかを重視してください。
Q. 無料のビデオ会議ツールで面接をしてもよいですか?
禁止されているわけではありません。ただ、無料版は時間や人数に上限があったり、守秘に関わる機能が限られたりすることがあります。50分前後の面接に収まるか、入室管理や録画の設定ができるかを確かめ、利用規約も読んで判断します。所属先でツールが決まっている場合は、それに従います。
Q. 無料の予約システムを使っても問題ありませんか?
無料か有料かより、入力された情報がどこに保存され、誰が見られるか、確認メールに相談内容が出ないかが大切です。予約の画面では名前と連絡先など必要な範囲だけを聞き、詳しい内容は面接で聞く設計にします。
Q. 面接を録画してもよいですか?
録画は相談者の情報が映像として残るため、慎重に扱います。医師向けのオンライン診療の指針でも、同意なしの録音・録画・撮影をしないことが求められており、考え方として参考になります。支援のために録画する場合は、目的、保存の期間と場所、見られる人を説明して同意を得ます。自動の文字起こしも同じように扱います。
Q. 厚生労働省のオンライン診療の指針は、心理職にも適用されますか?
適用されません。指針は医師が行うオンライン診療などを対象にしたもので、心理職のカウンセリングは対象外です。ただ、通信環境のセキュリティやプライバシーの考え方は、ツールを点検するときの参考になります。医療機関で働く場合は、所属先の規程にどう反映されているかを確認してください。
Q. 相談者の端末の安全性は、どこまで確認すべきですか?
相談者の端末の中まで確かめることはできません。支援者が管理できる範囲(接続先の送り方、入室の管理、録画の取り決め)を整えたうえで、第三者に聞かれない場所で受けること、アプリを更新しておくことなどを、同意の際にお願いしておきます。
まとめ
オンラインカウンセリングのツール選びと運用のポイントは、次の3つです。
- ツールは製品名ではなく、暗号化・入室管理・録画の管理・データの保存先・アカウント管理の5つの条件で比べる。無料と有料の差は、機能と責任の明確さに表れる
- ビデオ通話だけでなく、予約・決済・記録まで含めて「どの情報がどこに置かれるか」を一覧にし、必要以上の情報を持たない設計にする
- 個人情報保護法は自分にも関わる前提で確認し、オンライン診療の指針や医療情報システムのガイドラインは、心理職への直接の適用はないことを踏まえて点検の視点として借りる
オンラインカウンセリングのツールは、導入した時点で完成するものではなく、運用と見直しを重ねて守りを固めていくものです。まずは手元のツールを、5つの観点で一度点検してみてください。



