心理検査・アセスメント
HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)
よみ:えいちでぃーえすあーる別名・英語表記:改訂長谷川式簡易知能評価スケール、長谷川式、長谷川式スケール、長谷川式知能評価スケール
HDS-Rとは、高齢者の認知機能の低下を口頭の質問でおおまかに調べる、30点満点のスクリーニング検査です。診断を確定する検査ではありません。
HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)とは、高齢者の認知機能の低下がありそうかを、口頭の質問でおおまかに調べる、30点満点のスクリーニング検査です。1974年に発表された長谷川式のスケールを、1991年に質問項目と採点の見直しを行って改訂したものです。
日本では、認知症が疑われる人の最初のふるい分けや、すでに診断のある人の経過の確認に広く使われています。ただし、この検査だけで認知症かどうかが決まるわけではありません。心理職は、結果を「疑いの目安」としてとらえ、生活の様子や他の検査、医師の診察とあわせて考えることが求められます。問題や採点基準は書かず、位置づけと実務の注意点に絞って整理します。
HDS-Rでわかること
記憶や見当識(時間や場所の把握)などを中心に、認知機能の大まかな状態を見る検査です。質問はすべて口頭で答える形式で、図を描くなどの動作を含まないため、手に不自由がある人でも、会話ができれば実施しやすいとされています。
わかるのは、「認知機能に低下がうかがわれるか」という大まかな目安です。認知症の原因疾患の見分けや、重症度の厳密な判定はできません。結果は一時点の様子であり、体調や気分で変わることも踏まえます。
対象と構成
- 対象: 主に高齢者。認知症の疑いがある人の初期評価や、経過の確認に使われます
- 形式: 検査者が口頭で質問し、相談者が口頭で答える個別式です。国立長寿医療研究センターのケアマニュアルでは、所要時間は5〜10分程度とされています
- 得点: 30点満点です。日本神経学会の「認知症疾患診療ガイドライン2017」では、一般に20点以下を認知症の疑いとすると説明されています。国立長寿医療研究センターのケアマニュアルも、20点以下と21点以上で分けたときに最もよく見分けられるとしています。ただし、これはあくまで目安であり、診断は医師が行います
なお、同ガイドラインは2026年5月に改訂版「認知症疾患診療ガイドライン2026」が刊行されています。目安の扱いを説明するときは、新しい版の記載も確かめてください。
診療報酬の通知での位置づけ
令和8年度の診療報酬の留意事項通知では、「長谷川式知能評価スケール」の名称で、「D285 認知機能検査その他の心理検査」の「操作が容易なもの」のうち「簡易なもの」に、MMSE などと並んで載っています。この「簡易なもの」は主に疾患(疑いを含む)の早期発見を目的とするものと定義され、原則として3月に1回の算定とされています。短い間隔で繰り返す必要があるときは、医師と相談して理由を記録に残す運用になります。詳しくは厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」の通知で確認してください。
実施と解釈の注意点
- 教育歴や感覚機能の影響: 教育歴が短い人や、難聴・視力低下のある人などで得点が低く出ることがあります。補聴器や眼鏡の使用を確かめ、得点だけで判断せず、背景を踏まえて解釈します
- 気分や体調の影響: うつ状態、せん妄、疲労、緊張で得点が下がることがあります。認知症と抑うつは見分けにくいことがあるため、気分の状態も確かめます
- 相談者の自尊心への配慮: 質問が「できないこと」を突きつける体験になりがちです。目的を丁寧に説明し、できなかったときに責めない雰囲気をつくります。「テストをする」というより「記憶の様子を一緒に確認する」という伝え方が受け入れられやすいことがあります
- 同意と説明: なぜこの検査を行うのか、結果を誰が見るのかを、本人にわかる言葉で説明します。家族が同席する場面では、本人の気持ちへの配慮を忘れないようにします
- 誘導しない: 答えを促したり、ヒントを出したりしないなど、標準的な手順を守ります
- 練習効果: 短い間隔で繰り返すと、内容を覚えて得点に影響することがあります。再検査の間隔に注意します
- MMSE など他の検査との併用: 同ガイドラインでは MMSE と高い相関があるとされていますが、検査ごとに強みが異なります。複数の検査と生活の情報を組み合わせて見ます
面接・連携で押さえること
検査の前後には、本人と家族から、いつごろから何が変わったか、生活のなかで困っていること、服薬や身体の病気の状況などを聞いておくと、得点の意味を読みやすくなります。家族の話と本人の話が食い違うこともあるため、両方の見え方として記録します。
急に混乱が強まった、意識がはっきりしない時間帯があるなど、せん妄が疑われる様子があれば、検査を急がず、主治医や看護師に様子を伝えます。結果の伝え方は医師と役割を分け、本人や家族の不安が強いときは、心理教育の視点で、今後の相談先や生活上の工夫を一緒に考えます。
所見の書き方のポイント
- 実施日、実施時の様子(協力の度合い、気分、聴力)を最初に書く
- 得点は一時点の目安として書き、診断名を断定しない
- 失点した領域(見当識、記銘など)の傾向と、日常生活での困りごとを関連づける
- 「認知症です」と書かず、「認知機能低下がうかがわれる」「医療機関での精査が望ましい」のように、医師への橋渡しの表現にする
- 家族や介護者向けには、関わり方の工夫につなげる
詳しくは心理検査の所見の書き方を参照してください。
関連する用語
- WAIS(ウェクスラー成人知能検査)
- 心理教育は本文のリンクを参照
参考文献・出典
- 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」第2章 症候、評価尺度、検査、診断 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl201702.pdf
- 日本神経学会(監修)、「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会(編)『認知症疾患診療ガイドライン2026』医学書院、2026年
- 国立長寿医療研究センター「認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版」(2025年) https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
- 厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(令和8年3月5日保医発0305第6号)別添1 医科点数表(D285 認知機能検査その他の心理検査) https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001757385.pdf
- 厚生労働省「認知症の臨床評価について」(国立長寿医療研究センター 遠藤英俊) https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000018zii-att/2r98520000018zsi.pdf
